MBAで教えているビジネスの法則、傾向、メカニズムは知っているだけで仕事に「差」がつきます。本連載では経営戦略、統計・経済、マーケティング、コミュニケーション、人の認識(バイアス)などのビジネスセオリーを50個厳選した『グロービスMBAキーワード 図解 ビジネスの基礎知識50』から、そのエッセンスを紹介します。第4回は「思考バイアス」がテーマです。

バイアスがあることは罪ではない
それに無知であることこそが罪

最終回の今回は、バイアス(思考の歪み)について取り上げます。バイアスは、論理思考や問題解決の効果を低減させるとともに、組織行動学の場面でも、しばしば好ましくない効果をもたらします。

バイアスは、人間である以上、避けられないものです。たとえば、たった今この原稿を書いている私自身もバイアスに囚われている可能性があります。

たとえば、サンクコストへの拘りです。サンクコストとは、過去にすでに発生してしまったコストであり、もう取り戻しがつかないものです。理論的には、過去に発生したコスト(手間暇も含む)はいったん忘れ、ゼロベースで将来に向けて最適な行動をとることが推奨されています。

しかし、たとえばある程度の文章量を書いてしまうと、「いま一つかな」と思っても、それをゼロリセットして新たに文章を書き始めることができなくなるものです。

「せっかくここまで書いたのだから、この文章をなるべく活用しよう」と考えるのが普通の人の発想でしょう。それは往々にして文章全体のクオリティ向上を妨げたり、かえって手間暇がかかったりするという結果に結びつきます。しかし、分かっていてもそうした罠に陥ってしまうのが人間というものなのです。

このように完全な脱却が難しいバイアスではありますが、それを理解したうえで、少しでもいいのでそれを頭の中で思い返し、回避の努力をするのと、全く無知でバイアスに思考が歪められてしまうのでは、長い目で見て生産性に雲泥の差が出てしまいます。

バイアスは、人間である以上完全に逃れられないことを意識しつつも、最低限の知識を身につけておくことが、ビジネスリーダーの必須要件と言えるでしょう。

今回は、『グロービスMBAキーワード ビジネスの基礎知識50』の中から、こうしたバイアスを2つ紹介します。

思い込みが視野を狭める
確証バイアス

確証バイアスとは、いったん、ある思い込みがあると、それを支持するような情報ばかりが目につき、当初の思い込みを強化してしまうバイアスのことです。

たとえば図表のように、いったん「A事業に参入すべき」という結論に達すると、その事業に対する愛着なども増す結果、A事業参入にとってプラスの情報にのみ目が行き、マイナスの情報を無視したり過小評価したりするのです。

人間には、自分の考えを変えたくない、言いかえれば自分にとって居心地のいい思考の枠に収まっていたい傾向がある結果ともいえます。

確証バイアスの現れの1つにステレオタイプがあります。これはいわば「カテゴリーに対するレッテル張り」です。
たとえば、皆さん、以下のような人々を頭の中でイメージしてください。必ず何かしらの偏見が入っているものです。

・二世政治家
・IPO長者
・中国人/韓国人/モンゴル人/ロシア人…

こうした考え方は、思考過程を短縮し、意思決定を速めるといったメリットを持つ一方で、意思決定の質を落としてしまうリスクがあることは容易に想像がつくでしょう。

いったんあるステレオタイピングが生まれると、まさに確証バイアスが生じ、そのステレオタイプを強化する情報にばかり目が行き、その逆の情報を探す努力を怠ったり、軽く見たりするようになります。

上記の例で言えば、「二世政治家」からは、「お坊ちゃん/お嬢さん」「苦労知らず」「世間知らず」「打たれ弱い」などの印象が湧いてくる方が多いでしょう。そしてそういう事象のみに目が行くようになるのです。

もちろん、中には本当にそういう人もいますが、全員ではありませんし、実際に検証してみたところ、イメージとは逆の結果が出ることすらあります(たとえば、日本人は一般に会社が好きと思われていますが、ある調査によれば、最も会社を嫌っていた国民の1つが日本人でした)。

特に、自分が直に接したサンプル数が少なかったり、マスコミのイメージに踊らされていそうな印象に関しては、健全な批判精神をもってそれを一度疑ってみることが、正しい意思決定を導く上で有効なのです。