MBAで教えているビジネスの法則、傾向、メカニズムは知っているだけで仕事に「差」がつきます。本連載では経営戦略、統計・経済、マーケティング、コミュニケーション、人の認識(バイアス)などのビジネスセオリーを50個厳選した『グロービスMBAキーワード 図解 ビジネスの基礎知識50』から、そのエッセンスを紹介します。第一回は意外にきちんと説明するのはむずかしい「規模/範囲の経済性」がテーマです。

あらゆる物事には「傾向」がある

多くのビジネスパーソンは、無意識のうちに、法則、メカニズム――より噛み砕いて言えば、「○○をすれば△△になる」「○○になるほど△△になりやすい」といった「傾向」を意識しながら仕事をしているものです。

例えば、人は自分が自信があることについて褒められると気分が良くなる一方で、自分が得意でないと自覚していることに関して褒められると、かえって気分を害する可能性が高いというのも1つの傾向です。

仮にこうした傾向を知らない/覚えられない人間がいたら、日々の生活は大混乱となるでしょう。

ところで、重力や摩擦のような単純で明快な自然の摂理であれば、多くの人は子どものうちにそれを学んでしまいます。しかし、自然の摂理の中でも、学ばないと知りえない傾向というのもあります

例えば、生物の交配を行う際、血が近いモノ同士を交配させると、異常を抱える子孫が生まれやすくなるという傾向があります。しかしこれを経験値として学ぶことはなかなか難しいでしょう。

ビジネスの世界の傾向も同様です。たとえば「比較優位」の考え方を応用した「複数の人間で分業する際には、なるべく各人が『相対的により得意なこと』を任せた方が効果的になる」という傾向は、勘のいい人間は気づくかもしれませんが、多くの人間は説明されないとなかなかそれを理解することができません。

このようにビジネスの世界にもさまざまな法則があるわけですが、当然、それらを知らないとビジネス活動がなかなか効果的に行えません。こうしたビジネスに必須の法則を仕事をする上での「基礎知識」として『グロービスMBAキーワード ビジネスの基礎知識50』にまとめました。

知らないでは済まされない
ビジネス常識としての「法則」

さて、学ばないと知りえない、あるいは理解しえない法則と言いつつも、ビジネスリーダーを目指す以上は、「知らない」では済まされないものは非常にたくさんあります。その重大な理由の一つは、世界のビジネスリーダーの多くが、経営大学院などでそれを体系的に学習していることにあります。

例として、経営戦略立案の基礎ともなる「規模の経済性」「経験効果」「範囲の経済性」「ネットワーク経済性」などは、世界中のビジネスリーダーがMBAカリキュラムの1年時で習う「常識」となっています。

例えば、「規模の経済性」は、固定費の分散、あるいは変動費(特に1 個当たり仕入れコスト)のボリュームディスカウントによる低減のメカニズムです。多くの人は漠然と知っているかもしれませんが、その原理まで説明しろと言われると、意外に難しいものです。

また、場合によっては、規模が大きくなったにもかかわらず、かえって1個当たりのコストが増す「規模の不経済性」が生じることもあります。
どのような時に「規模の経済性」が良く効き、どのような時に「規模の不経済性」が生じるかを知らないと、武器を武器にできないのです。

一方、「範囲の経済性」は、異なる事業間でのコストや投資(資産)の共有による1個当たりコストの低減です。シナジーとほぼ同義です。

これも非常に重要な概念ですが、多くのビジネスパーソンは、シナジーという言葉はぼんやり意味合いが分かるものの、費用や投資(資産)の共有化という原理まで理解してこれを活用している人間は多くはありません。これでは効果も半減です。

事実、このことを理解していないがゆえに、有効な費用や投資(資産)の共有化の仕組みを構築できずに失敗してしまった新規事業は数知れません。