片や、80年代以降に到来した吟醸酒ブームにより、さらに香り高い酵母を求めて各県の管轄化にある研究機関や大学などで新たな酵母の開発が進められた。86年の全国新酒鑑評会で「吟醸王国しずおか」の名を全国に知らしめた「静岡酵母(HD-1)」は、酢酸イソアミル優勢のやわらかな果実香が出色。「メロンのような香り」のフロンティアである。 

日本酒の香りを決定付ける重要な役割を担う酵母の話花酵母を積極的に使用する西の代表格「天吹」は、香り酒のフロントランナー

 それからわずか4年後の90年、全国新酒鑑評会を席巻したのは長野県食品工業試験場が開発した「アルプス酵母」だった。吟醸香の成分であるカプロン酸エチルを半端なく生成することから“派手な香り”に加え、口中でふわっと広がる甘い香りが真骨頂。「デリシャスリンゴを思わせる香り」のパイオニアとして認知されている。

 以降も、「秋田流・花酵母(AK-1)」や「山形酵母(KA-1)」、福島「うつくしま夢酵母(F701)」など、いずれも香りが高く、酸の生成が少ないことから味わいがマイルドという特性を持つ、各県が開発したオリジナル酵母が続々誕生している。

 なお、最近では酵母のブレンドも積極的に行なわれている。技術的に決して易しくなく、品質もばらつきやすいなどの理由からこれまで避けられがちだったが、酵母同士の相性を見極めたうえで各蔵が試行錯誤しながら取り組んでいる。「芳香が持ち味の1801号だけではどうしても香り優先の酒になりがちなので、1401号をブレンドすることで香りを抑え、味とのバランスをとる」(信州の酒造メーカー関係者)といった具合だ。

 このほかにも、東京農大の中田久保教授が自然界の花から天然優良酵母を分離する方法の確立に成功し2003年に誕生した「花酵母」がある。

 現在、国内の酒造メーカー30社(焼酎専業メーカーも含む)がナデシコやベゴニア、ツルバラなど約20種類の花酵母を使用しており、従来の日本酒とはまた異なる芳醇な香りと味を楽しむことができる。

バナナ? リンゴ?
それとも白の貴腐ワイン?

 あのなんとも芳しい吟醸香を形成する成分は、大別すると2つの香気成分、酢酸イソアミルとカプロン酸エチルに分けられる。