臆病な性格のままに、
慎重で堅実な経営を目指す

 すると、支援者の方は笑って、「何を言っているのか。君が一生懸命にがんばって、初年度から一割の利益を上げたということはすばらしいことなのだ。一〇〇〇万円の融資を受けたにもかかわらず、その金利を払った上に一割もの利益が出るということは、この事業が有望だということでもある。売上がもっと増える見込みがあれば、さらに銀行から融資を受けて、積極的に設備投資をすればいいのです」と言われるのです。

 私が「それでは、借金が増えていくではありませんか」と返すと、「それが事業というものです」とさえ仰るので、私は「一〇〇〇万円の借金でも、ご迷惑をおかけしたらたいへんなことだと恐れているのに、さらに借金を重ねることなどできません」と答えました。

 すると、その支援者の方は、「あなたは優れた技術屋ではありますが、優れた経営者にはなれそうにないですね。借金を返すことばかり考えていては、会社が大きくなるはずがありません。事業家はよそから資金を調達し、設備投資をして、会社を大きくしていくものなのです。金利を返し、減価償却ができさえすれば、金を借りて設備投資をすることは、恥でもなければ悪いことでもないのです」と言われるのです。

 しかし、当時の私には経営の経験も常識もありませんから、自分の心が求めるままに、とにかくこれ以上の借金はするまいと固く誓い、その返済を最優先にすることを決意しました。

 そのときに、ハッと気づいたのです。「利益率一〇%では、利益は税金や株主への配当に取られてしまい、一〇〇万円しか手元に残らず、借金返済に一〇年もかかってしまう。ならば、すべてを差し引いて、最終的に三〇〇万円の利益を残すようにすればいいのではないか。そうすればほぼ三年で借金を返せる。初年度の利益率は一〇%だったけれども、それに満足することなく、もっと高い利益率を目指した経営をすればいいのだ」。これが京セラの高収益経営の原点です。

 会社を創業して間もなく、高い利益率を目指そうと考えたのも、私が野心家であったり、ましてや貪欲であったりしたからではありません。自らの臆病な性格のままに、慎重で堅実な経営を目指したからなのです。そして、そのような慎重な経営姿勢のもと、「売上最大、経費最小」を日々心がけることで、その後四〇%近い利益率を実現した年もあるなど、京セラを日本を代表する高収益企業とすることができたのです。また、その利益を内部留保として企業内に営々と蓄えることにより、豊かな財務体質を誇る無借金企業とすることもできました。