「2025年問題」で高まる歳出圧力
2020年代半ばに団塊の世代が70歳代後半から80歳を超えると、医療費などの社会保障費が急激に増える。「2025年問題」である。2004年改正で公的年金給付は2017年以降、その給付水準をひい下げることが決まったが、政治力の大きな高齢者の反発が予想され、予定通りの給付引き下げが実現されるのかは不透明である。
同時に、人口減少が本格化するから、高めの経済成長は期待できない。そのため、消費税などのさらなる増税は回避できそうにない。財政規律が確立されなければ、消費税率20%でも財政健全化にはまったく足りない。今から段階的に消費税を増税する一方で、歳出の大胆な効率化を進めて財政規律を維持し、消費税率15%程度で中長期的に財政を健全化できるようにすべきだろう。
財政規律が維持できないと、消費税を増税しても不要不急の歳出増に回ってしまう。高齢化、経済活力の低迷、財政赤字の累増という厳しい現実に直面しているわが国で、機動的な財政出動を今後も続ける余裕はない。痛みを伴わない財政運営では、必要性の低い歳出やばらまき給付は削減されない。財政規律が維持できないと、社会保障負担の急増が予想される将来世代にさらに重い負担を押しつけてしまう。2020年代に入る前から財政規律を重視して、社会保障や公共事業などの既得権に踏み込んで、世代間公平により留意する政策運営をすべきである。
安倍内閣が迎える正念場
2015年7月下旬に発表された各種の世論調査で、安部内閣の支持率は前回調査から低下して30%台になった一方で、不支持率は上昇して50%程度になった。安倍内閣は「株価連動政権」ともいわれ、株価を上げることで支持率を維持してきた。安保法制で支持率が低下したことで、アベノミクスに新しい動きがあった。
すなわち、安部政権は経済再生に軸足を移すとして、景気浮揚や地域振興を名目に新しい経済対策を打ち出した。アベノミクスの第2段階として、名目GDP600兆円を目指し、出生率1.8への回復や、介護離職ゼロを実現するという。しかし、そのための政策手段は曖昧なままである。
2016年夏には、参院選がある。また、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が大筋妥結したことで、農業改革を口実に追加的な農家支援として、財政支援策がばらまかれる可能性がある。そうなれば、歳出抑制シナリオでは想定していなかった歳出拡大が予想される。アベノミクスの第2の矢である財政出動をあきらめて、財政再建に真剣に取り組むとともに、第3の矢である成長戦略のための規制改革を着実に進めて、財政再建と成長戦略が成果を上げるようにすべきである。2020年代は、財政再建でも成長戦略でも正念場になる。甘い予想に安住して抜本的な制度改革を怠ると、相当厳しい状況に直面する。