同じ質問を複数の調査対象にくり返すことが大切
業界調査において、現地企業へ質問していると、それぞれの答えがかなり異なっていることが多い。特に、パートナー先を探していることがわかる場合、このライセンスを取るのは実はすごく大変なのだとか、この国際規格を持っているのは業界の中でもうちぐらいだといった話をよく聞かされる。ところが複数社に同じ質問をしてみると、結構普通に多くの会社が保有していたりする。
こうして、何度も同じ質問を複数の調査対象にくり返し、少しずつ浮世絵の多色刷りのように違った色を重ねていく。その結果、徐々に業界の全体像が、一つの絵に近づいていく。情報収集は、そういった作業だ。
著者がダイヤモンド・オンラインにおいて、ミャンマーについての連載を開始した2012年当時は、海外メディアも少なく、今では比較的一般的な情報でも、色々な情報が錯綜していた。そこで、なるべく多くの取材先に対してヒアリングを行い、おおよそ3ヵ所以上から同じコメントが取れた場合のみ、記事として記載するようにしていた。そうすると、トピックによっては取材した情報のうち、10%程度しか記載できないような場合も存在した。今でも、特定の業界の情報を深掘りしていく時には、基本的に状況は変わっていない。
街中の人の何気ない会話の中にも、貴重な情報を読み取れる
戦略策定において意義のある情報は、意識して情報収集を行わないと、なかなか拾うことができない。ただ、逆に意識して情報収集を行っていると、日常の何気ない景色の中から、多くの有用な情報が浮き上がって見えてくる。
どんな事業であっても、その国の、その地域の生活や人々の社会環境から切り離されて存在するものはない。ましてやB to Cの領域であれば、現地社会は顧客情報の宝庫だ。例えば、街中の人の何気ない会話から、商店街の街並み、マーケットで売られているもの、何に行列ができているのか、掲げられている広告の種類、ある特定の商品の値段など、少し意識を向けただけで、ただの通り道が貴重な調査対象に変わってくる。
出張時には、なるべくそういった情報収集も行ったほうがよい。こうした情報から、現地の市場性をどのように読み取るのか、そこが大きく問われてくる。
アポ入れの際に何を優先すべきか
アポイントメント先も、このように考えてくると、色々候補が増えてくる。相手もあることなので、都合よく自分の思ったとおりにスケジュールが決まるとは限らないが、なるべく意識してアポ取りの工夫をすることで、より効率的な情報収集が可能になる。
まず、現地では、その業界の全体像をザックリと理解したい。そのためには、必要な情報を語れる人になるべく先に会うほうがよい。また、比較的気楽に話を聞ける人に最初に会うといい。
ある程度の情報収集が進んだ段階で、より重要度の高い相手や、政府高官等のミーティングを入れるとよい。その段階では、大きく的外れなことを聞く可能性も減っているだろうし、また具体的に何を深く聞けばよいかも整理されているはずだ。この立場の人間でしか答えられないだろう質問に絞って、確実に聞いていくことができるだろう。