理系的な海外との向き合い方とは?
舛田 インターネットの業界にいると「対海外勢に関してはどう思いますか」とよく聞かれるんです。でも、いったい対海外勢って何なんだっていう。
川村 インターネットの世界に国境はないですもんね。
舛田 やっぱり海外の企業に対する黒船感がいまだにあるんだなと思います。
川村 アップルにしてもアメリカが始まりですけど、全世界にユーザーがいますしね。
舛田 そういう意味で、今うちが出資をしているトランスリミットという原宿のスタートアップがあって、『ブレインウォーズ』『ブレインドッツ』というパズルゲームが2本連続で、世界1000万ダウンロード超えを達成したんです。20代の若者が代表で3人で始めて、今でも数十人くらいしか社員がいないんですけど、実はダウンロードした1000万人中、日本のユーザーが劇的に少ない。つまり、当初から「どうしたら世界で多くのユーザーを獲得できるのか」という頭なんですよ。
川村 それは頼もしいですね。
舛田 起業して1本目から「世界で」と言えるって、ちょっとすごいなと思います。日本でヒットを出してアメリカとか海外に出ていく事例は今までもいっぱいありましたけど、トランスリミットの若者たちはそんな経験則を放棄している。
川村 しかも国内で成功してから海外に出ると、逆に経験則が邪魔になることもあるはずですよね。イチローが大リーグで成功できたのも、アメリカのベースボールのスタイルに合わせて、バッティングフォームをどんどん変えていったからだと思います。
舛田 やっぱり水のように変幻自在でいなくちゃいけないんだと思いますね。10年後のLINEはどうなっていると思いますか?
川村 変幻自在でいようとしている舛田さんを相手に野暮な質問だと思うんですが、10年後にLINEはどんなことをやっているんでしょうね?
舛田 それは本当に意味のない質問ですよ(笑)。
川村 ですよね(苦笑)。
舛田 ただ、これからの時代に、ユーザーがコンテンツにお金を払うというビジネスが成立するのかどうかには、興味がありますね。インターネット=フリーなので、あらゆるところで無料サービスはもう行き渡り切った印象もあって、ここからはネット上にVIPサービスが出てくるんじゃないかなと思っています。実際、中国なんかではもう存在しています。
川村 LINEとして海外の会員はまだまだ増える余地はありそうですか?
舛田 海外に関してはピンポイントでトップシェアをどう取っていくかだと思っていて、今、特にウエイトを置いているのはインドネシアをはじめとしたアジアです。インターネットもスマホの普及もすごい勢いで伸びていて、言葉が多様なので、LINEのメッセンジャーサービスとも相性がいいと感じています。
川村 そこに舛田さんならではの必勝法はあるんでしょうか?
舛田 僕は「こうじゃなきゃいけない」というガチッとした価値観を持ったかたくなな人たちに向けて「別にそうじゃなくてもいいかも」と思わせる何かを探して、提案するのが好きなんです。インターネット的なものが嫌いなおばあちゃんでも、子どもや孫との間のコミュニケーションに使えるとわかれば、途端に「スマホもLINEもいいわね」ってことになる可能性はある。
川村 あるでしょうね。
舛田 そういう意味で、今までのネットはコアな人たち向けのサービスだったのが、スマホが普及して一般の人たちがハイスペックマシンを持つようになって、ようやく大衆化した。結果、ネットのサービスもデバイスもやっと人々が自由に選ぶ段階に入ったと思っています。LINEとしてもここから大衆サービスになる方法を考えていて、かたくなな人々の心をどう開かせるかを考えるのはちょっと快感ですし、そこを発想できたら、勝てると思ってます。
川村 一軒家に住むかマンションに住むか、ファストフードなのか高級レストランなのか…みたいなことと一緒で、日常生活の選択の中にいよいよネットがカテゴリーとして食い込んできた今、LINEがどうなっていくのか楽しみにしています。
舛田 まぁ、朝令暮改、変幻自在でいくだけですから(笑)。
(2015年9月 東京・渋谷のLINEにて)