課長は「心配性」でちょうど良い
ほかの事件にも共通していますが、「その程度で自殺するなんて普通はありえない」という加害者側の言い分は通りません。人それぞれで受け止め方は異なり、自分の基準が相手に通用するとは限りません。
もし部下が自殺してしまったら、それは会社の責任であり、現場で止めなければならなかった課長の責任になります。ふさぎがちになっている、ミスが多くなっているなど、部下が発するサインを見過ごさないようにしましょう。
とくに、配属間もない頃など、まだ課員のキャラクターが把握できない時期は、少し心配性になるくらいでちょうど良いと思います。ましてや、「助けて」と言われているのに、自分には関係ない、自分の仕事ではないと考えて何もしないのは、課長という立場の問題以前に、人間性を疑われても仕方ありません。
ハラスメントは、それを許す環境に大きな問題がある
こうしたハラスメントが職場に与える影響は大きく、具体的な損失について、「中央労働災害防止協会」の調査により次のような結果が出ています。
ハラスメントによって職場の環境が悪化したり、社員の働く意欲が下がると、最終的には職場から活気が消え、生産性が低下します。外資系企業がハラスメントに厳しい対応をしているのは、こうした理由があるからです。
日本企業ではとかく、ハラスメントをする個人に問題があると考え、当事者を処罰したり、辞めさせたりすれば問題は片付くと考えられがちです。しかし、問題は職場の風土にあります。子ども同士のいじめにおいて、いじめる子、いじめられる子という当人よりも、いじめを許し、増長させるクラスや学校の風土に問題があるのと同じです。
課長は、もし課内でハラスメントが起きたら、自分がそれを許す風土を作っていたと自覚して、小さなハラスメントも許さない毅然とした態度をとるよう心がけてください。
労働問題専門の弁護士(使用者側)。1994年慶応大学文学部史学科卒。コナミ株式会社およびサン・マイクロシステムズ株式会社において、いずれも人事部に在籍。社会保険労務士試験、衛生管理者試験、ビジネスキャリア制度(人事・労務)試験に相次いで一発合格。2004年司法試験合格。労働問題を得意とする高井・岡芹法律事務所で経験を積んだ後、11年に独立、14年に神内法律事務所開設。民間企業人事部で約8年間勤務という希有な経歴を活かし、法律と現場経験を熟知したアドバイスに定評がある。従業員300人超の民間企業の社内弁護士(非常勤)としての顔も持っており、現場の「課長」の実態、最新の労働問題にも詳しい。
『労政時報』や『労務事情』など人事労務の専門誌に数多くの寄稿があり、労働関係セミナーも多数手掛ける。共著に『管理職トラブル対策の実務と法 労働専門弁護士が教示する実践ノウハウ』(民事法研究会)、『65歳雇用時代の中・高年齢層処遇の実務』『新版 新・労働法実務相談(第2版)』(ともに労務行政研究所)がある。
神内法律事務所ホームページ http://kamiuchi-law.com/