パワハラ、セクハラ、ソーハラ、マタハラ……。昨今は、これまであまり問題視されてこなかったコミュニケーションにも「ハラスメント」のレッテルが貼られるようになりました。課長は、どうすれば労働問題に巻き込まれずに日々のマネジメントに注力できるのか? 国内企業と外資系企業の人事部でサラリーマン経験がある労働問題解決の第一人者が、事例とともに実践的な「法律の使い方」をお伝えします。
海上自衛隊事件(東京高裁 平成26年4月23日判決)
先輩自衛官Bはいじめの常習犯でした。自殺した自衛官Aへ行われたいじめは、平成16年春頃から同年10月頃まで続きました。
10回以上にわたって、平手や拳で顔や頭を殴打し、蹴る。さらには関節技を掛ける。エアガンで撃つ。8月から10月頃にはアダルトビデオの売買代金名目で9万円ほど恐喝する。そんな執拗ないじめが半年にわたり続きました。
Aは生前、同僚にいじめ被害の内容を話していました。自殺1ヵ月前からは、自殺実行をほのめかす発言を繰り返していました。その報告を、上司である班長が聞いていたのです。しかし上司らは、いじめ問題についてとくに対策をとりませんでした。
Aの遺族は、Bと国を訴えました。争点は、(1)上司らがいじめの事実を知っていたか」、(2)「上司らが自殺可能性を予見できたかどうか」の2点。(1)は認められましたが、(2)は否定されたため高裁へ。
そして高裁では(2)も認められ、最終的に、国は7300万円の支払いを命じられました。
また、この事件では、Aの職場において、Aの自殺後にいじめに関するアンケート調査を実施していながら、国がその存在を隠していたことについても争点となりました。高裁において当時の担当者の隠蔽工作が認められたため、世間の注目を集めたのです。