「ファイナンス」や「ファイナンス理論」と聞いて、みなさんはどんなことを連想しますか? ファイナンスとは端的に言えば、「企業や事業の価値を最大化するためにはどうすればいいかを理論的に考えるためのツール」です。本連載では、モーニングスター株式会社代表取締役社長の朝倉智也氏の著書『一生モノのファイナンス入門』の内容をベースに、ファイナンスの基本のキからわかりやすくお伝えしていきます。
ファイナンスの目的は「企業価値の向上」
前回までで財務3表の見方を学び、企業の「過去・現在」を正しく把握するということの要点がご理解いただけたと思います。
今回からは、いよいよ「企業の未来を考える」ためのファイナンスについてご説明していきたいと思います。
最初に、「そもそもファイナンスは何が目的なのか」を改めて整理しておきましょう。以下の図表をご覧ください。
ファイナンスでは「企業価値の向上」を目的としています。このため、財務3表を理解して企業の「過去・現在」を正しく把握したうえで、「どうすれば企業価値が最大になるか」という視点で、今後の企業の経営戦略を考えることになります。
一般にマーケティングや研究開発、人材開発といった部門では、コストをかけた結果として「どれくらいの売上や利益になるのか」、あるいは「ブランド価値や人材価値がどれくらい向上するのか」を考えながら仕事をします。
しかし、目先の費用対効果を考えるだけでは、「そもそも何に費用をかけるべきか」、言い換えれば「資金をどのビジネスに投入していくことが企業価値を高めるために重要なのか」という視点が抜け落ちてしまうことになります。
従来の日本企業には、ファイナンスの知識が浅く、「費用対効果重視型」のビジネスパーソンが多かったように思います。
しかし、これからのビジネスパーソンが第一線で活躍していくには、あらゆる仕事にファイナンスの考え方を持ち込み、過去のデータから将来を予測して「投資すべきビジネス」を見極め、「企業価値向上」を目指す高い視座が求められるようになります。
みなさんには、ぜひこの連載でファイナンスの知識を身につけていただき、「企業価値向上重視型」のビジネスパーソンになっていただきたいと思います。
企業価値を計算する方法を身につける
さて、企業価値向上を目指すためには、なによりもまず客観的に「企業や事業の価値」を評価できるようにならなくてはなりません。
ですから、私からみなさんにお伝えしたいメッセージとしては、ぜひ「企業や事業の価値を計算する方法」を身につけていただきたいということです。
実際に、企業や事業の価値を計算できるようになると、たとえば、みなさんが事業計画を立てる立場になったとき、その事業の価値を計算して将来性を判断したり、その結果を経営陣に伝えたりできるようになります。
あるいは、企業の買収を手がけることになったら、買収価格を決める際に、企業価値の計算は必須となります。
また、ビジネスパーソンとしてステップアップしていった先には、複数のプロジェクトを前にどれに投資すべきかの選択を迫られる場面もあるでしょう。そのときも、「企業価値を最大化するプロジェクトはどれなのか?」を見る力があれば、より正しい選択を行うことができるはずです。
企業価値を計算するには、いくつかのアプローチ法がありますが、ここで計算法の一例を見てみましょう(下図参照)。
企業の価値は「将来にわたって企業が稼げるキャッシュ」を「今の価値(現在価値)」に引き直すことで算出できます。
ここでは、企業や事業の価値を計算することを学んでいきますが、価値を測る対象物が何であれ、また、どんな複雑なキャッシュフローの流れでも、それらをすべて現在価値に引き直せば、現時点の価値が把握できるようになります。
まずは、以下の図表を見てイメージを頭に入れておいてください。
※次回は、4月26日(火)に掲載します。