たとえば、1年以上FX(外国為替証拠金取引)を続けている人を集め、通算の損益を申告してもらったとすると、全員が正直かつ正確に成績を教えてくれたとしても、「FXは儲かるものなのか?」という判断を下すためのデータとしては偏りがある。

 この集団の損益には、FXを始めて1年以内に大損し取引をやめてしまった人の損失実績が抜け落ちている。調査方法に、統計の世界でいう「生き残りのバイアス」があるのだ。

 外国為替取引の世界は、仲介業者の儲けを無視すると、参加者全員の通算損益はおおむねゼロのはずだ。この点は、生産活動に資本を提供する株式投資や債券投資、不動産投資などと異なるので、FXは「投資」ではなく「投機」と呼ぶべきだ。どちらもリスクはあるが、投資のほうが損益がプラスになりやすいという意味で資産形成に向く。高金利通貨での運用の期待リターンを過大評価する人がいたり、「FXも株や債券の投資と同様の資産運用である」というイメージを振りまいて客集めをしようとするFX業者がいたりするせいか、投資と投機の違いがわからない「残念な人」がまだいる。

 生き残りのバイアスは、アクティブ・ファンドの成績評価をする際にも注意が必要だし、ヘッジファンドのパフォーマンス統計にあっても問題になることがある。

 FXでも株式投資でも、競馬でも、経営でも、それが儲かるのかどうか、あわよくばどうしたら儲かるのかを知りたい場合には、「実際にやっている人」の話を聞きたくなるものだが、調査方法としては、そこに落とし穴がある。

 生き残りのバイアスが、たぶん最も強力に働くのは「起業」について調べる場合だろう。起業して生き残っている社長の話を聞くと、実際よりも起業が簡単だと思ってしまいかねない。また、経営の方法について聞く場合にも、同じ方法を用いながら失敗して去って行った元起業家のデータが抜け落ちるから、要注意だ。