どれだけ働きまくっても、あなたの価値は増えない
1年の稼ぎではなく、長期的な稼ぐ力が価値を決めるという考え方は、企業価値評価だけではなく、人間の価値にも提供される。
「いやいや……お金だけで人間の価値が決まってたまるか!」と言いたくなる気持ちはひとまず抑えていただきたい(僕もそんな主張をするつもりはない)。
ファイナンスはすべての価値をお金に置き換える冷徹な学問である。その色眼鏡をかけてみると、世界がどんなふうに見えるのかという、ある種の思考実験として考えてみよう。
まずショックかもしれないが、一生懸命に働いてお金をたくさん稼いだ人に価値があるのかというと、そんなことはない。
ここで架空の人物Lくんについて考えてみる。彼は1年前には無一文だった。何か特殊なスキルがあったわけでもないが、ひとまず時給1000円のコンビニバイトを10時間して、1日で1万円、1ヵ月で25万円を稼ぐことができたとしよう。無駄遣いしないように慎ましく暮らした結果、Lくんは1年で100万円の貯蓄をつくることができた。Lくんの預金通帳には「残高100万円」が記載されている。
このとき、Lくんはしみじみとこう思う――。「1年前の僕と、いまの僕はこんなに違う。1年前は無一文だったが、いまの僕には100万円がある!」
このとき、Lくんの価値は果たしてどれだけ増えただろうか?
ファイナンス的の観点から答えよ。
残酷に聞こえるかもしれないが、答えは「ゼロ」である。100万円を貯めても、増えたのは貯金だけで、Lくんの価値はまったく増えていないのだ
キャッシュフローを稼ぐ力は年300万円(=月25万円×12ヵ月)のままである。1年前のLくんが30歳だったとして、あと30年働くとすれば、キャッシュフロー総額は、9000万円(30年×300万円)となっていたのに比べれば、現在は1年働く期間が短くなっただけLくんの価値も減ってしまったのだ。