それを聞いたLくんは「え? そんなはずないよ! 僕は汗水垂らして100万円も貯めたんですよ?」と反論するかもしれない。
しかし、「人材の価値=その人材が将来生み出すキャッシュフローの総和」がファイナンス的な原則である。つまり、ファイナンスの世界では、すべての人は労働などによって一定のキャッシュフローを生み出すことが前提となっているのである。
バランスシートで考えてみれば、Lくんが持っている労働力(無形資産)が、預金(流動資産)に換金されたにすぎない。資産の部そのものの大きさはまったく変わっていないのである。
では、どうすればLくんは自分の価値を高められただろうか? たとえば、すべてを預金に回すのではなく100万円を資格取得の勉強のために使っていたらどうだろうか? この資格取得によって、とある大企業に正社員として就職できたとしよう。これによってLくんのバランスシートは大きく形を変える。
定年までの平均年収が600万円に上がった場合、Lくんの価値は1億8000万円(=600万円×30年)に高まることになる。なお、ここで資格を例にしたのは、あくまでもわかりやすさのためであり、安易な資格取得をおすすめするつもりはない。
Lくんが稼いだ100万円を年利0.025%の定期預金に入れると、30年後には7527円の利息がつく。逆に言うと、たったそれだけのキャッシュフローしか生み出さない。
一方、資格取得のためのキャッシュアウト100万円は、9000万円近い価値上昇のきっかけとなった。その意味で、これはきわめて見事な投資だったと言えるだろう。
このようにファイナンスでは、持っているお金の額や、その年たまたま稼いだ金額ではなく、「将来にわたってどれくらい稼げるか」で価値が決まる。これは、モノも企業もヒトもまったく同じだ。