この世で最もポピュラーな「最凶の愚行」は?
分散効果と相関効果によって確実に儲けているビジネスがある。それはギャンブルだ。胴元は分散効果と相関効果を味方につけている典型例なのである。
まず、大前提としてギャンブルと投資はまったく異なる概念である。「株式投資なんてギャンブルみたいなものだ」などと言う人もいるが、そもそも期待収益の基本構造が違うからである。
投資はハイリスク・ハイリターン(リスクが高ければリターンも高い、リスクが低ければリターンも低い)が原則だが、ギャンブルの世界は基本的にハイリスク・ローリターンである。
競馬にしてもルーレットにしてもパチンコにしても、ギャンブルは期待リターンがマイナスであり、胴元が必ず儲かる仕組みになっている。つまり、あなたが損することが最初から決まっている取引である。
宝くじの期待リターンに至ってはマイナス50%であり、これは競馬(マイナス30%)と比べても、とんでもなくあこぎな商売だ。世の中のイメージとずいぶん違うはずだ。
期待リターンがマイナスということは、借金をして高いリスクをとっても、期待リターンを高めるレバレッジ効果が働かないことを意味する。むしろ、期待リターン(というかむしろ期待損失)はどんどん悪化し、ハイリスク・ハイネガティブリターンになる。
なぜ負けることがわかっているギャンブルに、人はのめり込むのか?
人間はリスクを回避しようとする生き物ではないのか?
これは、オーソドックスなファイナンス理論に認知科学を掛け合わせた行動ファイナンスという学問分野が取り組んでいる問題だ。
人間は一定のリターンが明確に見込めるときには、リターンを失うことになるリスクを回避しようとする。しかし、2002年にこの学問領域での成果を評価されてノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman: 1934~)のプロスペクト理論は、人間のリスク回避度合いは状況によって変化するということを明らかにしてみせた。
すなわち、マイナスを目の前にすると、人間は損失そのものを回避するために、進んでリスク愛好家になるというのである。ちょっと例題を考えてみよう。
100万円を差し上げます。次のどちらかを選んでください。
(1)当たれば200万円もらえるくじを引く(当選率50%)。ただし、外れたら100万円も没収
(2)くじを引かずに帰宅する
いま100万円の借金があります。次のどちらかを選んでください。
(1)当たれば借金がチャラになるくじを引く(当選率50%)。ただし、外れたら借金は200万円に
(2)くじを引かずに帰宅する
問題Aでは迷わず(2)を選んでリスクを回避したがる慎重な人も、問題Bではギャンブル性の高い(1)を選んでしまうことがわかっている。つまり、人は一度借金をしたり、損をしたりすると、さらなる損失に対する感応度が鈍くなり、高いリスクをとるようになってしまうわけだ。