大惨事となった熊本地震は、改めて地震列島・日本に住む我々の生活リスクを浮き彫りにした。九州の地震保険加入比率は、全国的に見て低い。それがこれまで大きな地震が少なかったことに起因していることは、各種アンケート結果から読み解くことができる。しかし、日本は災害が多い国であり、過去の教訓を基に、災害対策として様々な法律が整備されている。「備えあれば憂いなし」と言うように、物件の選択を間違わないことが最大の防御になることは、自宅が持ち家であれ賃貸であれ同様だ。不動産選びにおいて、命・生活・資産を守るための鉄則を「リスクの視覚化」によって明らかにしておこう。
熊本地震を機に改めて検証
東日本大震災後の仙台市の賃料は?
まず、2011年に起きた東日本大震災を振り返り、当時の不動産相場がどうたったのかを検証してみよう。
「地震が起きたら不動産価格は暴落する」というのは嘘だ。東日本大震災が起きた後、仙台市の賃料単価は平均で2割超上がっている(図表1参照)。
震災直後、物件検索サイトの掲載件数は以前の4分の1程度に減少している。つまり、ネット広告を出して部屋を埋めないといけない物件は、ほとんど存在しなくなったのである(図表2参照)。
不動産価格は需給バランスの影響を強く受ける。震災が起きたエリアでは安全に住める住宅が少なくなるので、被災した人や復興に駆けつける人の需要が急増して需給バランスが逼迫し、むしろ価格が高騰する。賃料が短期間で平均2割も上がるなどという現象は、筆者はこうした大地震のケースでしか知らない。大災害が起こると、このような狭い範囲で市況の変化が起こる。
こうした人の移動は、これまで潮の満ち引きのように揺れ動きが見られた。東日本大震災後に東京湾岸のエリアは液状化が起こり、生活が困難になるほどの被害を受けた地域もある。そうした場所では不動産価格が大幅に下落したが、住み替えができた人は限定的だった。住宅ローンの残元本を不動産売却価格が下回ると、売るに売れなくなるからである。
そうしたエリアの賃貸に住む人は、地盤の固いところに移転するケースが多い。温故知新で台地やお屋敷街が好まれ、造成や埋め立てのエリアは避けられる傾向にあった。しかし、これも時が経つと「人の噂も七十五日」と言わんばかりに、災害の深刻さは忘れられていく。東京五輪の開催決定を契機に、湾岸エリアは人気が再燃する。災害と居住地の関係は、残念ながらパニックと忘却の繰り返しの歴史なのである。