「経験則」で勝ち続けることは不可能

 以前、ファイナンス系の仕事をしている私の友人が「自分の立場では、とにかく勝ち続けなければいけない。そうでなければすぐにでもクビが飛ぶ。でも、勝ち続けるには勘や経験則だけでは足りない」とはっきり言っていたことを思い出す。

 これまで彼は勘と経験で何とか乗り切ってきたが、正直言って「ヒヤヒヤする場面の連続だった」という。

 何百億、何千億という単位のお金を動かしていくにあたって、そんな不確かなものだけに頼っていたら、いつかは大きな失敗をするに違いない。

 そんな危機感を抱いたからこそ、「シカゴ大のEMBAへ行って、基礎から応用まで徹底的にファイナンスを学び直すことにした」と彼は語っていた。

 彼は「『知ったつもり』の日本のサラリーマン」などと言っていたが、理論を軽視して勘と経験に頼りがちなのは、日本のビジネスパーソン全体に言える傾向だ。

 だが、シビアな舞台で仕事をすればするほど、勘と経験だけに頼るのは心もとなくなってくる。

 また、欧米、とくにアメリカでは、何かしらの失敗をしたときには、厳しい説明責任が発生する。失敗自体も問題だが、「なぜ、どのような理由で失敗したのか」をきちんと説明できなければ、問われる責任の重さがまるで違ってしまう。

 そういう意味でも、自分はきちんとした知識や理論の裏付けを持っていて「正当な判断を下したにもかかわらず、不測の事態によって失敗してしまった」(すなわち、自分に非があるわけではない)という理論武装が必要になってくる。

 だからこそアメリカでは、統計学やゲーム理論などが発達しているし、授業にやってきた投資会社の経営者も「重要な決断はディシジョンツリー(取り得る選択肢をすべて書き出す樹形図)を使って行う」と語っていた。こうしておくと、あとで振り返ったときに説明責任を果たしやすい。

 転職をする際も、前職で達成したことやできなかったこと、それをどう分析し、何を学び、次はどうしたいかなどについて、理論的にクリアに説明できるかが厳しく見られる

 そんなさまざまな理由で、世界のエリートたちは自身の勘や経験に頼ることなく、しっかりとした知識、理論を学び続けるのだ。

(本原稿は、『世界の最も野心的なビジネスエリートがしている一流の頭脳の磨き方』より抜粋して掲載しています)