だから、判断のスピードと精度が上がる

 外資系大手銀行から、世界の野心的なエリートたちが学ぶ「エグゼクティブMBA(EMBA)」に来たSさんは、「自分のプランした新たな金融商品の仕事が本当にうまくいくのか、いつも漠然とした不安を抱えている」と言っていた。

 本を読んでも確信は持てないし、周りや上の人間に成功の秘訣を聞いても「経験だよ」などと言われて、いつまで経ってもモヤモヤとした気持ちが晴れない。だからこそ、一度理論をしっかりやらなくてはと思ったという。

 EMBAで出会ったあるベンチャーの経営者は、こんなことを言っていた。

「基礎的なものを含めビジネスのさまざまな理論を学ぶことは、これまでの自分の経験則が正しかったのか、あるいは偶然成功しただけの危ういものだったのかを再確認できる非常に大事なプロセスだ」

 じつは、この「自分の経験則に、理論的な裏付けを得たい」と感じているビジネスエリートは大勢いる。「過去の経験や勘に頼るのではなく、確固たる理論を学ぶことで、判断のスピードと精度が高まる」と彼らは考えているのだ。

 実際、コンサルティング会社を経て、いまはベンチャーキャピタリストをしているあるクラスメイトは、「20代のときにMBAを取得したが、当時はキャリアアップのためにMBAの肩書きを得ることが目的だった。でも今回は違う。自分がいま携わっている会社の経営のために改めて勉強したい」と言っていた。

 たとえば、EMBAの授業でも「キャズム」「ハイプカーブ」「Sカーブ」「ロングテール」「ブルーオーシャン」など、さまざまなマーケティング理論を徹底的に学ぶ。

 これらの知識だけを見れば、大学やMBAで学ぶ内容と大差はないだろう。

 だが、グローバル企業のビジネスエリートが集まる学びの場では、一人ひとりが持っている経験値が圧倒的に違うので、「過去に自分は、こんな場面で、このような判断をしたのだが、この理論を知っていれば同じ決断はしなかっただろう」とか、「あの時点で経営判断にものすごく迷ったが、この知識があればその時間を短縮することができたはずだ」など、自身の経験に紐付いた生の意見と体験談が飛び交う。

 あるいは、「いま自分はこのような経営課題を抱えているが、この理論にのっとると、どのような判断が妥当だろうか?」と問題を提起する生徒が現れ、教授と生徒が一緒になって問題解決の道を探っていくというケースもめずらしくない。

 ここでもまた、「学び(理論)と実践」がセットになって語られているわけだ。つまり、彼らは自身の勘や経験則だけに頼るのではなく、理論を学ぶことで、より質の高い判断力を身につけようとしているのだ。