ファンドは「投資先のリストラありき」になってはいけない
ムーギー 経営者は従業員を食べさせていかなければいけない。それはたしかに大事だと思うんですが、とはいえ、この業界ですと、投資した後に経費や人員をカットしたり、パフォーマンスの低い人を高めていくなど、シビアに判断しなければ立ちゆかない部分もあるではないか、と同業の皆さんからの、お叱りの声が聞こえてきそうです。そのあたりを佐山さんはどうお考えですか?
佐山 まず、混同してはいけないのが、私たちインテグラルのような会社も含め、いわゆる「プロフェッショナルファーム」は別なんです。プロフェッショナルファームであれば、必ずしも雇用が保障されなくても仕方のない面はあると思います。プロ野球でいうと、投げられるか、打てるか、走れるか、何かができなければ雇用され続けることはできません。プロフェッショナルファームは、プロ野球のチームと同じなんです。でも、私たちが投資している先の企業は全然違います。スカイマークとか、私がもといた帝人とかね。そういう会社の雇用は守っていかなければいけない。
ムーギー なるほど。プロフェッショナルファームの雇用と、事業会社の雇用はわけが違う、と。
佐山 もちろんJALの会社更生のケースのように構造上リストラしなければやっていけないという場合もあるとは思うんです。それはあるとは思うんですけど、人を人とも思わない「リストラありき」でやるのは違う。ファンドには、リストラするのが当たり前って思っている人もいますが、現場の人含め、すべての社員に生活があるということを考えなくてはいけない。それを安易にリストラするというのは「あなた何様なんだ」という話ですよ。
ムーギー 佐山さんがおっしゃっているプロフェッショナルファームと、雇用を守るべき会社というのは、どう違うんでしょうか。普通の事業会社でも、プロフェッショナルとしてパフォーマンスを上げなければならないのは競争が厳しいこのご時世、たちいかなくなってしまいます。その線引きというのはどこにあると考えていますか?
佐山 プロフェッショナルファームというのは、その看板がなくてもやっていける人の集まりです。プロ野球選手だって一流の人はジャイアンツでなくたって、タイガースだって、メジャーでもやっていけるでしょう。でも、大企業も含め事業会社で働いている大部分の人は、ある意味では歯車なんです。組織の中で役割を果たしている人たちです。
ムーギー そういう人の雇用は守らなければならないと?
佐山 そう思いますね。その人たちの生活を守っていくのは経営者の仕事だと思います。だから、私たちのようなファームが投資先の社長を指名するんですが、社長というのはプロフェッショナルファームの雇用と同じです。
ムーギー 社長も結果を出さなけば、クビになる。
佐山 そうです。それをしないと、その下の従業員の雇用が守れなくなる。私も昔は、自分たちが指名した社長を交代させるのはどうかな、と思っていた時期もありました。でも、そんなことを言ってちゃダメなんですよね。ダメな経営者を交替させるのも投資家の仕事なんです。ただ、この社長を決めるのが本当にむずかしいんです。面接をしてても、その相手ができる社長なのかどうなのかを見極めるのはむずかしい。
ムーギー そこは本当にむずかしいですよね。
佐山 はっきり言って、私の経験では3人に1人しか当たらないですね。もっと確率を高められないものかと前々から思ってたんですけど、おもしろいことに、京セラの稲盛さんも、日本電産の永守さんも同じことをおっしゃっていました。「社長選びが一番むずかしい。3人に1人しか当たらない」と。
ムーギー それはおもしろいですね。
佐山 あの人たちでそうなんだから、しょうがない。だから、そういうもんなんだと思うようになりましたね(笑)。要は、面接では、経営がわかっているかどうかはわかっても、わかったうえでできるかどうかまではわからない。実際にやってもらわないとわからないということなんです。