権限を持っているからこそ「下から目線」にすべき

ムーギー これまで佐山さんは本当に多くの投資先企業とつきあってきたと思いますし、業績を回復させたり、人を育てたりするのもファンドの役割の一つだと思うんですが、佐山さんが投資先とのつき合いの中で、気をつけているのはどういうところですか?

佐山 そうですねえ。私もファンドの人をたくさん見てきましたけど、一般的に見て、ファンドの人って投資先の企業に対して偉そうなんですよ。

ムーギー ああ、中にはそういう困ったファンドもありますよね。

現場感覚のある「ウェットな働き方」をしよう<br />ムーギー・キム 1977年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA(経営学修士)取得。大学卒業後、外資系金融機関の投資銀行部門にて、日本企業の上場および資金調達に従事。その後、世界で最も長い歴史を誇る大手グローバル・コンサルティングファームにて企業の戦略立案を担当し、韓国・欧州・北欧・米国ほか、多くの国際的なコンサルティングプロジェクトに参画。2005年より世界最大級の外資系資産運用会社にてバイサイドアナリストとして株式調査業務を担当したのち、香港に移住してプライベートエクイティファンドへの投資業務に転身。フランス、シンガポール、上海での留学後は、大手プライベート エクイティファンドで勤務。英語・中国語・韓国語・日本語を操る。グローバル金融・教育・キャリアに関する多様な講演・執筆活動でも活躍し、東洋経済オンラインでの連載「グローバルエリートは見た!」は年間3000万PVを集める大人気コラムに。著書にベストセラー『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』(東洋経済新報社)がある。

佐山 偉そうでしょ。それは権限を持ってるからですよ。

ムーギー そうですよね。私も幸い、人を非常に大切にする素晴らしいファンドで働いてきましたが、業界の中には上から目線の、けしからんファンドも存在します。

佐山 でも、そんなのって最低ですよ。たまたま権限を持ってるだけで、その人が偉いわけじゃない。いま、私たちの会社からも10名以上が投資先企業に常駐で行っていますけど、「同じ目線で話しても上からに感じられるから、『下から目線』くらいがちょうどいい」ってことを言って、みんなを送り出しています。

ムーギー なるほど、同じ目線でもダメで、あくまで下から目線なんですね。

佐山 権限のある相手に対しては、それでもどうしたって上から目線に感じてしまいますよ。

ムーギー なるほど。やはり、コントロール株主に対しては社員の方は気をつかってくださいますものね。そんな中、佐山さんの会社は「下から目線」を心がけてらっしゃると。

佐山 でも、それだからこそ投資先との信頼関係は抜群なんですよ。以前、村上ファンドがまだまだ元気だったころ、村上世彰さんと、あちこちのパネルディスカッションで一緒になって、テレビでも対談したことがあるんですけど、そのとき彼は「我々にとって一番大事なのはファンドの投資家だ」と言っていました。たしかに、毎日売ったり買ったりするヘッジファンドなどは投資家を一番大事にするのはいい。でも、インテグラルのように経営権を取るような「バイアウトファンド」は、一番大事にすべきは投資先の企業だと、私は当時から言っていました。経営権を持つということは、そこの従業員に対して責任があるということです。

ムーギー その原点が、帝人で働いた最初の3年間にあるということですね。

佐山 まさにそうなんです。

ムーギー お話を聞けば聞くほど、すごいウェットなビジネスの仕方ですね。ドライと思われがちな投資の世界で、心あったまるお話をいただきました。

佐山 そうですよ。めちゃめちゃウェットです(笑)

ムーギー 佐山さんの大切にされる「信頼」の形成の仕方や他者への思いやりは、本書『一流の育て方』の中でも、第六章、第七章で、その具体的な教育方法が論じられています。やはり、子育てでもビジネスでも、人として立派に育てるには、「信頼」と「思いやり」を大切にできる「育て方」が大切だということですよね。
 今日は佐山さんの子ども時代の話から、人材教育、仕事の話まで幅広く聞かせていただいて、本当にありがとうございました。

佐山 こちらこそ今日はありがとうございました。

(構成:飯田哲也)