危機的な状態にある日本の正規雇用と非正規雇用の労働者間格差。その是正策を講じるには、この問題の背景にある日本人社会の文化特性を考慮する必要があります。「周りに流される」「個人の権利より組織に対する義務」という日本の文化を取り上げた前回に続き、今回は、「肩書を通して人を見る」「組織への献身度で人の価値を測る」という2つの文化に着目し、これを踏まえパラダイムシフトを起こす必要性に触れます。
カースト化する
「正規・非正規」への懸念
日本のいわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間にある格差は、先進国中、最悪の状態にあるといっても過言ではありません。例えば時間あたり平均賃金。正規雇用労働者(無期雇用・フルタイム勤務)を1とした場合、非正規雇用労働者では、「有期雇用・フルタイム勤務」が0.68でOECD加盟21ヵ国中16位、「有期雇用・パートタイム勤務」にいたっては0.53で最下位です。
その結果、非正規雇用労働者の雇用者全体に占める割合が40%を超えることも相まって、日本のワーキングプア比率は、OECD加盟27ヵ国中21位、非正規雇用労働者の世帯の貧困率は20%(正規雇用労働者の4倍)にまで上昇しています(出所:OECD 2015年データ)。
筆者は、こうしたショッキングなデータを見るたびに、2つことを懸念します。1つは、格差の横(領域)への拡がりです。待遇の格差(賃金、福利厚生、能力開発機会等)が、アクセシビリティの格差(住宅賃貸、各種ローン取り付け、医療機関、教育機関、結婚相手等)や希望の格差(将来の仕事、健康維持、生活や仕事に対する希望)に今後ますます拡がることへの懸念です。
2つ目は、格差の縦(時間)への伸びです。世代を超えて、正規の家系は正規に、非正規の家系は非正規となる可能性です。インドのカースト制度のように社会階層が世襲化することへの懸念です。
人間に「正規」と「非正規」の
レッテルを貼る不思議の国
日頃、私たちは「正規○○」という表現をよく耳にします。正規代理店、正規ルート、正規商品、正規価格、正規教育、正規入社、正規資格、正規窓口、正規手続きなどです。辞書にも「正規○○」とは「正式の規則に基づいていること」とあるように、一般的に日本人は、この用語に対しもつ印象はポジティブです。例えば、正式な、王道の、真面目な、質が高い、安心できる、社会に認められている、そのかわり価値(値段)も高いなどです。