総資産がいたずらに膨らんでいないか?

 一歩引いてBSの全体を見てみると、左側の総資産(資産合計)は「投資資金の総額」と「リスクの大きさ」を表しているととらえることもできます。

「投資資金の総額」というのは、文字どおり会社の総投資額の意味で、この総資産でPLの当期利益を割ると投資対効果をチェックすることができます。つまり、会社がすべての資産を利用して、どれだけの利益を上げているかがわかるのです。この指標はROA(総資産利益率)と呼ばれ、これを経営指標にしている会社も多いです。

 ためしに、上場会社の2014年度決算で総資産がもっとも大きかった3社のROAを見てみましょう。トヨタ自動車の総資産47.7兆円で当期利益2.1兆円を割ると、ROAは4.4%となります。同じくソフトバンクは3.6%、NTTは2.5%です。総投資額ばかり膨らんで生みだす利益が小さいとROAも小さくなり、投資効率が悪いと判断されます。

 次に「リスクの大きさ」というのは、総資産の規模が大きいほど大きなリスクが潜んでいる可能性があるという意味です。

 たとえば、もし総資産の1%が価値のない不良資産だったとしたら、前述の3社はそれぞれ4700億円、2100億円、2000億円の損失を含んでいることになります。わずか1%といっても相当な額の損失になりますから、いたずらに総資産を膨らませるのは好ましくないわけです。最近よくいわれる「資産を持たない経営」というのは、こうした点を重視したものといえるでしょう。

安本隆晴(やすもと・たかはる)
公認会計士・税理士。株式上場準備コンサルタント。
1954年静岡生まれ。1976年早稲田大学商学部卒業後、朝日監査法人(現・あずさ監査法人)などを経て、安本公認会計士事務所を設立。1990年(株)ファーストリテイリング(旧・小郡商事)の柳井正社長と出会い、以降、株式上場準備コンサルタント・監査役として、同社の成長を会計面から支えてきた。現在、アスクル(株)、(株)リンク・セオリー・ジャパン、(株)UBICの監査役でもある。2013年3月まで6年間にわたり中央大学専門職大学院国際会計研究科特任教授を務めた。2014年5月より若手経営者向けの勉強会「未来経営塾」を開講している。

 (本連載は毎週金曜日更新。次回は5月27日(金)公開予定です)