ブレストは「アイデアの数」のみを重視する。
質は問わない
【柳澤】そう、新しい人が次々に入ってくる。だからぼくらは、つくる人を増やすという理念を見つめ直す「ぜんいん社長合宿」を、年に2回やっています。でも、そこで何をやっているかというと、ただブレストしているだけなんですよ。
【藤沢】ブレストのテーマはどんなものなんですか?
【柳澤】テーマは会社の課題です。たとえば、今採用をどう増やしたいとか、辞める人が多いからどうやって退職を止めたらいいかとか、この事業が伸び悩んでいるからみんなで考えようとか。会社の課題をブレストすると、誰もがみんな「つくる人」側に少しだけなれるんですよ。
【藤沢】確かに。今おっしゃった中で「辞める人が多いからどうやって退職者を止めたらいいか」というものがありましたけど、御社の「離職率連動型!のこるん同期旅行手当」もユニークなアイデアですよね、同期入社した社員の入社5年後の離職率に応じて、90%以上いたら世界一周旅行できるし、70%以上辞めてたら日帰り健康ランドという……。
【柳澤】そうそう。それもブレストで出た社員のアイデアですからね。
【藤沢】「辞める人が多いけれど、どうするか」という問いに対して、ある意味すごく具体的な解決策ですよね。それを考える背景にはやはり「理念」があると考えていいんですか?
【柳澤】そうですね。先ほどもお話ししたように、本来は「面白法人」が理念なんですけど、これだけだと具体的ではないので「つくる人を増やす」を経営理念にしているんですね。先ほどの話でいうと、経営理念をつくったときにいた50人の人は「つくる人」になれるんですけど、その後に入ってきた人は「つくったものに乗っかる人」になってしまいかねない。それを解消するために、ブレストで会社の課題を議論しているんです。
【藤沢】なるほど。
【柳澤】ブレストって、みなさん「出されたアイデアを否定しない」ってルールを重視するじゃないですか。でも実はそこはそれほど重要じゃない。一番重要なのは「数を出す」ってことで。
【藤沢】へぇー。どういうことですか?
【柳澤】本来、ブレストは、「数を出す」ってことがゴールの会議なんですね。だから1時間やってたくさんのアイデアが出ていたら成功だし、出ていなかったら失敗っていう。だから「いいアイデア」は1つもなくてもいいんですよ。とにかく数を出す。そのために、否定すると数が出にくくなるから否定しないっていうことなんですよ。そして、数をたくさん出しているとなぜかいいアイデアが見つかりやすいというのが、ブレストの基本的な考え方なんですよ。
加えて、アイデアを出すときには「人の意見に乗っかる」ことが重要です。自分だけでアイデアを出していると、自分の思考の癖からなかなか抜け出せない。自分自身も、すごくいい企画を思いついたなと思って調べると、過去の企画書と同じものだったりすることがよくあります。そこで、人の意見に乗っかってアイデアを出すと、なんかちょっと違うものが出る。そういう意味で、理念合宿では6時間くらいブレストをやってるんです。
【藤沢】6時間!?
【柳澤】6時間。その間ずっと、数を出さなきゃいけないと意識してやっていると、脳がだんだんアイデア志向になってくるんです。「否定」とか「質問」をしようものなら、「それはアイデアじゃないね」とみんなに指摘されることもありますね(笑)。「アイデア」を出さなければいけない。それを長時間やってると、筋トレと一緒で、脳が鍛えられて、だんだんアイデア志向になります。それが「面白がる体質」につながるんです。だから、カヤックのみんなでランチに行くと、必ずブレストになっちゃうんですよ。
【藤沢】ブレストが癖になっちゃうんですね。
【柳澤】そうそう。面白がる生き物になってくるっていうか、だんだん本音がなくなってくるっていうか、剥いても剥いても面白がるっていう、そういう状態になってくる。そうすると、「つくる人を増やす」という言葉としての経営理念はもはやどうでもよくて、ブレストをすることで「面白がる体質」が醸成される。これが理念の合宿になるなってことに気づいたんですよ。
【藤沢】そうか、みんなが「経営理念そのもの」になっているっていう感じですね。
【柳澤】そうそう。そう考えると、言葉も重要なんだけど、究極的にはどんな方法でもいいっていうか。
【藤沢】面白い。最初はすごく言葉にこだわっているんだけど、ブレストのところでは、言葉を超えた感覚が生まれてるんですね。
(第2回に続く)
シンクタンク・ソフィアバンク代表
大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年、代表に就任。そのほか、静岡銀行、豊田通商などの企業の社外取締役、文部科学省参与、各種省庁審議会の委員などを務める。
2007年、ダボス会議(世界経済フォーラム主宰)「ヤング・グローバル・リーダー」、翌年には「グローバル・アジェンダ・カウンシル」メンバーに選出され、世界の首脳・経営者とも交流する機会を得ている。
テレビ番組「21世紀ビジネス塾」(NHK教育)キャスターを経験後、ネットラジオ「藤沢久美の社長Talk」パーソナリティとして、15年以上にわたり1000人を超えるトップリーダーに取材。大手からベンチャーまで、成長企業のリーダーたちに学ぶ「リーダー観察」をライフワークとしている。
著書に『なぜ、川崎モデルは成功したのか?』(実業之日本社)、『なぜ、御用聞きビジネスが伸びているのか』(ダイヤモンド社)など多数。
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