藤沢久美氏の『最高のリーダーは何もしない』が、発売2ヵ月で5万部を突破する売れ行きを見せ、悩めるリーダーのための新定番書となりつつある。
先日開催された出版記念セミナーでは、当初は定員50名予定だったにもかかわらず、150名を超えるリーダーからの応募が殺到。特別ゲストとして田坂広志氏(多摩大学大学院教授)も駆けつけ、セミナーは大盛況のうちに幕を閉じた。
著書では語り尽くせなかったリーダー論の背景とは?全3回にわたるイベントレポートの第1回は、藤沢氏による講演の模様をお伝えしていく。
(構成/高橋晴美)
求められるリーダーシップの形が変わった
本日はお集まりいただき、ありがとうございます。なぜこの『最高のリーダーは何もしない』という本を書こうと思ったか。今日は、その理由として2つのことをお話ししたいと思っています。
まず1つは、世の中が大きく変化し、リーダーシップが確実に変わってきていると強く感じていた、ということです。
世界経済フォーラムが毎年開催するダボス会議という会議があります。世界中のいろいろな分野から、毎年100人ほどのリーダーが、主に他薦で選ばれるのですが、私は2007年にヤング・グローバル・リーダーに選んでいただき、参加する機会を得ました。それ以来、10年ほど出席しています。
企業、NGO、政治、王族皇室の方など、いろいろなリーダーが出席し、東アジア会議、中南米会議、アフリカ会議など、2、3ヵ月に一度、世界中で会議を行っています。
世界経済の今後や、社会がどう変わっていくのか、どんな課題があるかを議論したり、アクションを起こしたりしています。その中で、「確実にリーダーシップが変わってきている」ということを感じたのです。
規模より、リーダーの意思決定力が重要な時代
どう変わってきているのかをお話ししましょう。
私がダボスに参加し始めた頃は、大国が強い、大企業が強い時代で、世界のルールはG7、G8の加盟国が決めている状態でした。しかしサブプライムローン問題があり、リーマンショックが起き、それ以降は必ずしもそうではなくなった。
聞いたことがないような小さな国が存在感を持って外交交渉に登場するのを、目の当たりにするようになったのです。「小さい国の方々がなぜイギリスやドイツといった大国と丁々発止で外交交渉ができるのだろう」——そう考えたときに、小国にはイギリスやフランスの元外交官などがアドバイザーや交渉官としてついていることを知りました。
国のリーダーがこういうことをやりたい、こういう権利を得たい、こういうふうに国を持っていきたいと考えたとき、自国に人材がいなければ、海外からパートナーを迎え入れる。そうすることで、とても小さな、学校教育も行き渡っていない国でも、ビジョンを叶えることができるのです。
迎えられる側の立場から考えてみると、自分の国はライバルだらけ。自らの能力を生かして活躍したいと思っても、ライバルが多くて日の目を見られる可能性は高くありません。そこで、小さな国の王様や大統領に「私をあなたの国の人材として採用しませんか」と提案し、その国を代表する交渉官、外交官として活躍できるポジションを与えられるのです。
ITの時代ですから、テレビ電話で会議をするなど、その国に移り住まず、自分の生まれ育った国にいながら、その国にアドバイスし、実際に国連の会議が行われるときになって初めて一緒になり、交渉する、というような状況もみられます。
そういうものを見聞きすると、国の大小ではなく、いろいろな知恵のある人たちに力や知恵を借りることが重要なのだということを感じます。お金があるとか、人がたくさんいるから強い、という時代ではなく、いかに知恵を借りられるか、どれだけ仲間を増やせるかが大事になってきたということです。
そのとき、「誰の知恵を借りるのか」を決める力、つまり意思決定力がますます重要になってきます。