野心的な「HMW的質問」を考える

 HMWは長年にわたってIDEOで使われてきたが、その起源は50年前のシドニー・パーンズにさかのぼる。

 パーンズは当時最先端の創造性に関する専門家で、ニューヨーク州バッファローにある創造的問題解決学会を率いていた。

 ミン・バサデューは1970年代前半、P&G社のクリエイティブ担当マネジャーの任期中に創造的問題解決学会で学び、同社のマーケティング力を強化するためにパーンズのブレインストーミングのアイデアを採用した。P&Gは当時、コルゲート・パーモリーブ社が発売し、緑のストライプと爽快感で人気を博していた石鹼「アイリッシュ・スプリング」に対抗しようと必死になっていた。

 バサデューがプロジェクトに取り組んだときには、P&Gはすでにコルゲートを真似た緑のストライプの石鹼を6種類試していたが、どれもアイリッシュ・スプリングを凌駕できずにいた。

 バサデューはP&Gのマーケティングチームが間違った問い(「どうすればコルゲートより良いグリーン・ストライプの石鹼をつくれるだろう?」)を追いかけていると見て、もっと野心的なHMW的質問を考えるようすぐに提案した。

 そうして、「どうすれば、もっと爽快になれる石鹼を実現できそうか?」という問いにたどりついた。これが創造のエネルギーに火をつけ、バサデューによると、その後数時間のうちに「爽快感を生む」石鹼について数百ものアイデアが生まれた。

 そしてチームは最終的に、「海辺の爽快感」というテーマに至った。そこから、海を思わせるやわらかなブルーと白のストライプの「コースト」が生まれ、大ヒットとなった。

「コースト」の物語が示すように、HMWの手法には、たんに3つの単語を用いる以上の効果がある。バサデューはメンバーを「正しい」HMW形式の問いに導くために、さらに大きなプロセスを採用した。そこにはたくさんの「なぜ」が含まれていた(たとえば、「なぜ、我々はこんなに必死になって別のグリーン・ストライプの石鹼をつくろうとしているのか?」など)。

 また、P&Gのチームに、競合他社の製品のことばかりを考えるのをいったんやめて、消費者の視点から状況を見直してみるようにも促した。消費者にとって大事なことは、石鹼の色(緑のストライプかどうか)ではなく、爽快になることだった。

 バサデューは、企業が間違った問題設定をして、その解決に時間と努力を費やす例はいくらでもあると主張する。「ほとんどのビジネスパーソンは、問題の『発見』とか『定義』については、限られたスキルしか持っていません。MBAプログラムで教わっていないからです」

 この「すきま」を埋めようと、彼はバサデュー・アプライド・クリエイティビティというコンサルタント会社を設立し、企業向けにHMW型の質問を中心に据えた創造的な問題解決プロセス「シンプレックス」を開発した。