関心があるのはディスプレイだけ
株価下落なら破談も

 一方で、そうしたさまざまな要素につぶさに目を向け、ディスプレイ事業への投資に必死にそろばんをはじく姿が、かえって家電をはじめ他の事業への関心の薄さを際立たせているようにも見える。

 上図で示した通り、シャープ本体への出資額を減らした際、家電や太陽光をはじめ他の事業は軒並み、投資額を減らしている。発表文書に書かれた投資計画の分量を見ても、ディスプレイ事業以外は極端に文字量が少ない。

 また、見逃せないのは普通社債の償還に充てるはずだった300億円を、あっさりとゼロにしたことだ。

 シャープの惨状を見るまでもなく、ディスプレイ事業は需要の山と谷が大きく、時に巨額の損失が発生するかじ取りの難しい事業だ。

 そのためにも、ショックを吸収できるだけの十分な自己資本を持ち、社債や借り入れなど有利子負債から身軽になっておくことが先決といえる。

 にもかかわらず、有利子負債まみれのシャープにあって、たとえ300億円であっても社債の償還資金を削ることは、中長期の経営を本当に見据えているのかと、批判されても仕方がない。

 「万が一」(郭会長)と言い訳しつつ、出資が実現しない場合は、ディスプレイ事業だけを買い取る権利を与えるという条項をわざわざ盛り込んだことを鑑みても、ホンハイは最初からシャープ本体に出資する気などないのではないか、と勘繰りたくなる。

 出資の期限として設定しているのは10月5日だ。それまでに爆発するかもしれない一つ目の“時限爆弾”は、6月末の株主総会での特別決議。現状の株価よりも大幅に割安な価格でホンハイが引き受ける(有利発行)ことになるため、議決権で3分の2以上の賛成票が必要になる。二つ目の時限爆弾は、7月末に発表される16年4~6月期の業績だ。

 それを待たずとも、12年にシャープ株が下落した際、引受価格の引き下げを求めて交渉が決裂したように、今回も株価が1株88円という引受価格を下回った場合、彼らはどう立ち回るのか。

「自ら信用不安をあおるような言動をして株価を下げておいて、これじゃあ出資できないと言いかねない人たちですよね」

 そうした声が、社員たちから噴出するほど信頼をされていない企業に、シャープの命運は託されている。