鴻海精密工業(ホンハイ)の郭台銘(テリー・ゴウ)会長は早くもシャープの支配を確立しつつある。名門企業を手玉に取る郭会長とは一体どんな人物なのか。その実像に迫った。
「シャープ製品のシェアを台湾でナンバーワンにするように。それからサービス体制を強化してブランド力も高めてほしい」
4月下旬、台北郊外のホンハイ本社で、郭台銘会長は、シャープ台湾(夏宝)の陳盛旺社長と鈴木善治副社長の2人と向き合っていた。液晶テレビなどシャープ製品の販促強化を指示するとともに、販売データや組織人員、コスト構造などあらゆる資料の提出を要求したのだ。
お膝元、台湾のシャープ現地法人の経営に早くも口を出した形だが、陳氏は反発したという。なぜなら、シャープ台湾は、地元有力者の陳一族が経営する家電メーカー、声宝(サンポ)集団とシャープが折半出資する合弁会社。いくら日本のシャープ本体が買収されたとしても、陳氏にとっては郭会長から命令を受ける筋合いはない。「そうしたことは取締役会に正式に提出していただけませんか。あるいはシャープ本社を通してもらいたい」と陳氏は返答し、ホンハイ本社を後にした。
「即断即決」のスピード経営を信条とする郭会長は、日本にも早速幹部社員を送り込み、シャープに次々と指示を飛ばしている。事業部単位で財務資料を要求し、赤字ならその理由を厳しく問い詰める。郭会長は、シャープが浜松町に賃借する東京支社のビルを見て「ずいぶん立派ですね」と皮肉ったという。すでにシャープには、固定費の掛かる事業所の見直しを指示した。
また、ホンハイは4月から5月にかけて台湾と中国の事業所や工場で、社員向けにシャープの白物家電製品の販売イベントを開催。4月27日に本社近くの事業所で開いた販売会には、戴正呉副総裁が「挺SHARP(頑張れシャープ)」とプリントされた法被をまとい、シャープの長谷川祥典専務を従えるように登場。その写真は台湾メディアに大きく掲載された。
自家用ジェット機を飛ばして日本を訪れ、シャープ社内で頻繁に目撃される郭会長は、すでにシャープを「わが物」にしたかのようだが、実際にはまだ出資は完了していない。だが、1日16時間のハードワークと「独裁為公(独裁をもって公となす)」を公言するワンマン経営者はそれを意に介する様子はなく、その剛腕にシャープは圧倒されている。
郭会長が隠そうともしない拡大への野心と攻撃的な言動。それは「幼少期の貧しさが原点にある」(ホンハイの取材経験が豊富なジャーナリストの野嶋剛氏)。