ホンハイ傘下に入ることでシャープは本当に再生できるのか。再建計画の目玉として有機ELの共同開発を掲げるが、楽観はできない。その上、ホンハイ自身にも危機が迫っている。
「群創光電(イノラックス)は、そんなに厳しいのか」──。5月初旬、そんな観測が台湾で広がった。定例の第1四半期の投資家説明会を突如取りやめ、5月に開かれる取締役会で段行建会長の辞任を承認すると発表したからだ。
イノラックスはホンハイ傘下の液晶パネルメーカーで、中国勢との価格競争激化などによって、2015年10~12月期は67億台湾ドル(約223億円)の最終赤字となっていた。
ホンハイ全体でも業績は低迷している。下図のように、昨年12月には連結売上高が前年同月比で21%も減少。16年の1~3月の累計でも▲6%と前年割れの状態だ。
背景にあるのは、米アップルのiPhone減産だ。下図で示したように、財務資料などからホンハイのアップル向けの売り上げ構成比を推計すると、実に55%を占めており、しかもその比率は漸増傾向にある。過度なアップル依存がホンハイを揺さぶっているのだ。
「高雄のG6はもう少し様子を見てからでもいいと思っている」
3月中旬。ホンハイ幹部と大阪市内で会談したシャープの液晶部門OBが、新工場の状況について尋ねると、そう答えが返ってきた。
高雄のG6とは、スマートフォン用液晶パネルを生産する第6世代の工場で、ホンハイとイノラックスが共同で設立。当初は3月までに稼働を始めるとみられていた。
新工場の稼働延期の背景には先述したiPhone減産の影響もあるが、前出のシャープのOBによると、もう一つの理由は、シャープ買収の動向を見守っていたためだったという。
テレビ用液晶に使用されるアモルファスシリコンに比べて、スマホ用の高精細液晶に使う低温ポリシリコン(LTPS)は、「量産の難易度がケタ違いに高い」(液晶関係者)とされ、特に第6世代クラスになると、イノラックスは技術の蓄積が少ない。
それ故に、低い歩留まりで不良品を乱造するより、シャープからの技術移転を待って稼働を始めようと考えたのだ。
『人員2000人を追加削減 やりたい放題の「進駐軍」』で、ホンハイが「液晶関連の契約は今後イノラックスを通せ」などとむちゃな要求をしていたことに触れたが、そこにはそうした背景があったのだ。
ホンハイに買収されたシャープは今後、イノラックスとの連携を深めていくとみられるが、問題は両社ともスマホ用に今後需要が拡大する、有機ELパネルの研究開発で大きく後れを取っており、連携による相乗効果が当初は期待しにくいことにある。