全貌は下図の通りで、各事業グループはホンハイ本体のEMS事業と傘下企業を束ねている。傘下企業は100を超えるとされるが、資本関係は郭会長の個人会社や関連会社を経由するなど複雑。血縁・地縁でつながる会社も実質的にグループとして動いており、全てを把握するのは難しい。例えば、パソコンやスマートフォンの周辺機器のEMSである正崴精密工業(フォックスリンク)は、郭会長の弟の台強氏がトップを務め、「あうんの呼吸」で連携している。
12事業のリーダーたちには「バーチャルカンパニー」として自律的な運営を求めるだけでなく、実際に分社化して株式公開(IPO)することを促している。事業リーダーの一人の盧松青氏は、ホンハイの祖業のコネクターを手掛ける鴻騰精密(FIT)の会長で、FITは16年に上場する予定だ。
注目されるリーダーは、ディスプレイを統括する王志超氏。傘下の液晶メーカー、群創光電(イノラックス)では、段行建会長が退任し、後任として王氏が内部昇格した。段氏は10年に吸収合併した液晶メーカーの奇美電子との統合を強力に推進した。その流れからして、王氏はシャープの液晶事業の命運を握る人物になるかもしれない。
ホンハイは4月に入ってイノラックス幹部をシャープの亀山工場や中国・無錫市の後工程工場に派遣して、液晶在庫を調べるとともに、顧客情報を報告させている。また、シャープの技術者をイノラックスの地震被害を受けた台南工場に呼び寄せてラインを見学させた。戴副総裁は4月2日の買収調印の会見後、日本の記者団に「シャープとイノラックスは別の会社で運営も別々ですよ」と強調したが、実態としては緩やかに統合プログラムが動き始めているようだ。
ホンハイ本社から車でおよそ20分の場所に、商売の神・関帝(関羽)を祭る小さな道教寺院「土城順聖宮」がある。「三国志」の英傑、関羽を崇拝する郭会長にとって最も身近にある寺院で、経営判断に迷うと、ふらりと訪れて参拝している。
4月中旬、この寺院に安置されていた30センチメートル大の金色の関帝像がシャープに送られた。関羽の故郷の中国山西省から取り寄せた特別な関帝像で、ホンハイの傘下企業に与えられる「グループの証し」という。ホンハイの出資完了は6月28日以降だが、すでに郭会長はシャープを「仲間」として認めたようだ。
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