サンプル品が売られている
2010年6月某日、X社の営業窓口の担当者Aは、外部からの突然の電話を受けていた。
「貴社のサンプル品を近くのノミの市で取り扱っているのを見かけた。当社も取り扱いたいのだが、どのようにしたら在庫を融通してもらえるのか?」という内容であった。X社では、美肌液のサンプル品を、少量のパッケージにして販促のために店頭などで頒布しているが、それらは非売品と明示されており、有償で販売することは認めていなかった。
また、在庫も製造ロット番号単位で管理しており、個別の店頭頒布の機会ごとに出荷して、必ず一定期限までの使い切りとし、未出荷在庫も含めて期限が過ぎれば全て廃棄することとしていた。電話を受けた担当者Aは、「当社では、サンプル品の販売を行うことはない」旨を問い合わせ者に丁寧に伝え、電話を切った。しかし、その際、X社サンプル品が取り扱われていたノミの市の情報や問い合わせ者の連絡先は、聞きそびれてしまった。
担当者Aは、電話の応対を終えたのち、形式的な社内手続きとして、「見ず知らずの業者から、サンプル品を売ってほしいという電話がありましたが、丁寧にお断りました」と、上司の課長に報告した。課長は、「サンプル品などが流通したら営業妨害になる。管理を徹底しないといけないな」とのコメントを発したが、その話はそれ以上発展することなく、忘れ去られることとなった。
取引先からの苦情
営業部長Bは、大口取引先Y社からの苦情の電話を受けていた。X社のサンプル品がネットで販売されており、営業の支障となっているという。「なぜ、サンプル品を野放しにするのか?」というクレームであった。「サンプル品がネットで出回っているらしいぞ。どうなっているんだ!」営業部長Bは電話を受けてすぐに、営業課長を呼び出して実態調査を命じると同時に、担当取締役Cを通じて、取締役会にも報告を行った。