一般的なティッシュより柔らかく、しっとりとした使用感が特徴の高機能ティッシュ。1000億円弱の市販用ティッシュ市場の4分の1を占める高機能ティッシュカテゴリーに、10月1日、鳴り物入りで登場したのが大王製紙の「エリエール+Water」だ。

 保湿液を塗布し、汎用ティッシュに比べ水分率を170%にまで高めながらも、1箱約100円、5箱で498円(共に小売店での予想価格)と従来品のおよそ半額で発売された。

 買い物客で賑わう週末のドラッグストアでは、「“マツジュン・ティッシュ”ください」と自分の小遣いで箱ティッシュを買う女子中高生の姿も。人気グループ「嵐」の松本潤さんを起用し、「化粧品並みに費用投入した」(大王製紙)というCMも話題を呼んでいる。

 ご多分に漏れず、消費者のデフレ志向で販売単価下落が激しいティッシュ。市場全体を見ると、2009年は前年に比べ数量ベースでは3442億パックと3%増えたが、金額ベースでは7%減り909億円にまで落ち込んだ(インテージSRIデータ調べ)。ドラッグストアやスーパーマーケットで“安売りの目玉”として取り扱われており、ナショナルブランドでも「5個パック198円」の廉価で売られて久しい。「数は出るけど、売っても儲からない」(大手ドラッグストア)のが現状だ。

 背景には急激な中国製の流入もある。数量ベースではすでにティッシュ市場の6~7%のシェアまで伸びているという。流通・小売店による一部のプライベートブランドや、ディスカウントストア、ホームセンターなどでは、箱の代わりにビニールフィルムで包装したティッシュを見かけることがあるだろう。これらの多くは中国製が多く、徹底したコストダウンによって安さで消費者の心を捉えている。

 ただ、消費者が安価なティッシュに満足しているかというと、そうではない。硬くざらざらとした品質のティッシュでは物や汚れを拭いたりするときは問題ないが、何回も鼻をかんだり、化粧に使ったりすると、皮膚をこすりすぎてヒリヒリと痛むことがある。肌に優しい高機能ティッシュは昔からあるが、1箱200円以上はしたため、「手が届かない」という声がメーカー、小売店共に届いていた。

 5箱198円の汎用品と、一箱200円以上する高級品の間に位置する価格帯で、かつ何回も鼻をかんでも痛くならない品質のティッシュ――このコンセプトで「エリエール+Water」は開発された。

 高機能ティッシュ製造は、素材が柔らかいうえに、保湿液を塗布しなければならないため、扱いに慎重を要するなど非常に手間がかかる。今回、商品開発段階から、複数ある塗布工程を減らし、ヨレやすい紙の巻き取りスピードを上げるなど製造改善を進めたことで、従来の保湿ティッシュに比べ生産量を3~4倍にし、汎用ティッシュにひけをとらないくらい早く大量に製造する工法を編み出した。これが価格低下に結び付いた。関連特許を30以上取り、詳細は企業機密だというが、大王製紙は保湿ティッシュを16年前から出しており、長年の技術の蓄積によって生産革新を可能にしたという。

 販売にも相当な気合の入れようだ。商品配下店舗は3万5000店(コンビニ除く)でエリエールでは最大級。まずは翌年3月までで3000トンの出荷、ティッシュ市場でのシェア13%(金額ベース)を目指す。来春は例年に比べ花粉量が多い予報が出ており、「絶好のタイミングで発売できた。小売店のティシュ売り上げの大幅な改善に貢献できるだろう」(立石浩義・大王製紙ホーム&パーソナル事業部商品企画第三部部長代理)と自信を露にする。

 ただ、「エリエール+Water」の狙いはその先にある。汚れた物を拭く時と鼻をかむなど肌に触れる時、それぞれ用途に応じたティッシュの使い分けを啓蒙し、定着させようというのだ。汎用ティッシュを物用に、高機能ティッシュを肌用にと使い分けをしている消費者はまだ一部。そこに、高機能ではあるが従来品よりは手軽に使える「エリエール+Water」が登場したことで、一般家庭でも使い分けが進むのではないかと読む。

 同業他社の高機能ティッシュで代表的なものには「鼻セレブ」(王子ネピア)、「クリネックスローション」「スコッティカシミヤ」(日本製紙クレシア)があるが、立石部長代理は「彼らからも『新しいマーケットを作ることを期待しています』と激励された」という。

 中国をはじめとした海外からの廉価品の流入で青息吐息の国産品は少なくない。しかも、成熟市場であれば、シェアは奪われる一方だ。その意味で、新価格帯を創造し、顧客奪回に動く大王製紙の試みは興味深い。まずはお手並み拝見といったところだろうか。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)