氏の証言は専門家としての後悔の言葉で満ちている。例えば、11日夕方、原子炉を冷やせない緊急事態になったとの報告が東電から届いたとき、「大丈夫だ」と思い込んでしまった。自らの甘さを責め、「結局、私は何ができたのか。いまも同じ問いを繰り返す日々です」と語っている。

班目氏はいま、あの事故で起こったことを忘れないうちにまとめるべく執筆しているという。日本が2度と同じ間違いを繰り返さないためにも、氏の著作は重要な意味を持つはずだ。

各種の事故調査報告書によって明らかにされたのは、3.11の被害を拡大させた要因の1つが菅政権だったという点だ。自身の知識をひけらかして現場の混乱に拍車を掛けたのが菅首相だ。氏の肝いりで設置されたのが原子力規制委員会だ。規制委は日本の原発再稼働阻止の意図で設置した機関だと、菅首相自身が「北海道新聞」の取材で語っている。そのような強い政治的意図を背景にした規制委は、果たして、原発や放射能の安全を高めるという本来の仕事をしてきただろうか。

その問いに国際原子力機関(IAEA)の専門家チームが答えている。国際社会の専門家集団が12日間にわたって調査し、「迅速な改善、しかし、課題あり」という暫定評価を公表した。暫定評価には規制委に対する厳しい意見が書き込まれている。

IAEAが規制委の改善すべき具体例として筆頭に挙げたのが「もっと能力のある経験豊かな人材を集め、教育、訓練、研究および国際協力を通じて原子力と放射能の安全に関係する技術力を上げるべきだ」という点だ。

原子力施設の検査をより効率的に行えるように、関連行政手続きを修正すべきだとの指摘もされた。

規制委に関しては活断層問題をはじめ、科学的根拠を欠く議論も注視され、疑問視されてきた。原発再稼働の申請に当たって無意味なほど大量の文書をつくらせたこともすでに批判されている。

国際社会の権威から「もっと能力ある人材を集めよ」と言われてしまった規制委に、わが国は内閣からも独立した強い権限を与え、国の未来を決するエネルギー政策の根幹を任せているわけだ。このような能力不足の日本の規制委に助言する、専門家集団の設置が必要だと強調するゆえんである。

(『週刊ダイヤモンド』2016年2月6日号の記事に加筆修正)