Jリーグ改革ではPDCAのど真ん中に「M(ミス)」を据えた

前回は、サッカーのプロ選手の経験もなければ、クラブチームの経営もしたことのない私が、いきなりJリーグのチェアマンに就任した経緯と状況、そして当時の心境を述べた。

 Jリーグには、現在J1からJ3まで全国38都道府県に53クラブが所属している。チェアマンとなった私は、各クラブの代表を集めた実行委員会の議長をしなければならない。右も左も全くわからない状況で、月に一度、当時51人の社長を集めて会議を取り仕切ることになったのである。

 大変なことになったと思った。なにしろ、相手を知らなければ議長など務まるはずがない。スタジアムやクラブハウス、オフィスなど保有している設備の状況や、行政、経済界、メディア、従業員とはどのような関係性なのか、またサポーターやホームタウンとの距離感なども知りえないと本当のコミュニケーションは難しい。そこで、半年くらいかけて、全国51クラブを全て回ることにした。

 J1からJ3まで53クラブもあると経営者の個性もさまざまだが、共通しているのは、クラブの社長と言えば間違いなく地元の名士だということ。実行委員会には、知事や市長とも対等に会えるような一国一城の主が顔を揃えているのである。いわば「全国知事会」のようなもので、互いの利害が絡む本格的な議論になったら一歩も退かないような方々もいて、コミュニケーションの難易度は非常に高かった。

 そんな全国行脚と同時にJリーグの収益の柱であるスポンサー営業も進めていたので、本当にめまぐるしい毎日だった。

インターネット時代の新しい放映権

 放映権に関する検討は、実質的には2015年の後半くらいから始まった。

 実はイングランドのプレミアリーグも、ドイツのブンデスリーガも、スペインのリーガエスパニョーラも、世界の主要リーグの主たる収益源は放映権である。いずれもスポンサー収入よりはるかに大きい。ところが、Jリーグはスポンサー収入と放映権収入が同じくらいだったので、最も大きな伸び代があるのはこの放映権だと考えていた。

 世界の状況を見ると、例えばタイでは、放送局がイングランド・プレミアリーグの放映権を獲得するために3年契約で300億円くらい払っている。タイの国民がイングランドの試合を見るために、1年に100億円も払うわけだ。現在Jリーグの事業規模が年間130億円だから、自国のサッカーへの投資に回せばJリーグが1つできるくらいの金額を、他国に払っているということになる。

 それくらい放映権というのは高騰している。そして、我々はそのマーケットに対してどう対処すべきなのか。ずっと課題となっていた事項だった。