挨拶や感謝の言葉のやりとりは
実は信頼醸成のための「高等戦略」

 前回と前々回は、誤解によって社員同士がお互いをフリーライダーと見なし合う事態を避けるために、コミュニケーションが重要であることを述べた。

 誤解が生じる原因の多くは、相手に対する不信に基づいているため、普段から円滑なコミュニケーションがあれば、そのような不信を持たなくて済む。したがって、不信感を払拭し、相互に信頼できるようなコミュニケーションをとることによって、「誤解型」のタダ乗りは防ぐことができる。

 また前回は、挨拶や感謝の言葉といった「当たり前」のことが重要だと述べた。拙著『フリーライダー――あなたの隣のただのり社員』でも、以前出版した『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』でも、同様のことを述べている。

 小学生のホームルームの時間でもあるまいし、「何を今さら」と感じる読者も多いだろう。しかし、挨拶や感謝の言葉のやりとりから始めるということには、理論的な根拠がある。

 信頼し合っている人々は、お互いに色々なものを「任せる」ことができる。会社の場合には、「仕事を任せる」ケースが一番多いだろう。他人に仕事を任せるということは、手を抜く(タダ乗りする)とか失敗する(能力が不足している)とは思わず、いちいちチェックしたり、監視しなくても、きちんと業務を遂行できると「信頼」することを意味する。

 しかし、他人同士が業務を任せ合うような信頼関係をいきなり築くことは、まずない。そのような信頼関係は、それ以前の様々なコミュニケーションによって成り立つ。

 見知らぬ相手との信頼を築こうとするときは、まずお互いにそれほど重要ではない仕事を任せ、そこで上手くいったならば、もう少し重要な仕事を任せる、というやり方をとることがある。

 つまり、信頼が裏切られても損害があまり出ないところから始めて、相手が信頼に応えると、もう少し重要な仕事にステップアップするやり方だ。