追い込まれた状況こそが、
人を成長させる

「放置プレー」でビジネスパーソンは急成長する小沼大地(こぬま・だいち)
NPO法人クロスフィールズ共同創業者・代表理事。1982年生まれ、神奈川県出身。一橋大学社会学部を卒業後、青年海外協力隊として中東シリアで活動。帰国後に一橋大学大学院社会学研究科を修了、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて勤務。2011年、ビジネスパーソンが新興国のNPOで社会課題解決にあたる「留職」を展開するクロスフィールズを創業。2011年に世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shaperに選出。2014年、日経ソーシャルイニシアチブ大賞・新人賞を受賞。国際協力NGOセンター(JANIC)の常任理事、新公益連盟(社会課題の解決に取り組むNPOと企業のネットワーク)の理事も務める。
NPO法人クロスフィールズ http://crossfields.jp/

「何かを成し遂げなければいけない追い込まれた状況こそが、人を成長させる」という信念も、シリアでの経験から教えてもらったことだ。

 人というのは、「これをやらなければ大変なことになるので、どうにか成し遂げなければ」という状況に追い込まれたら、その状況を脱しようとして、あらゆる意味で必死に成長をしていく生き物なのだと思う。そうした状況になれば、必要なスキルを死に物狂いで本人が勝手に学んでいくものだ。

 日本における教育や人材育成の考え方は、「まずはスキルを磨いてもらおう。その上で、成長したら責任を持たせよう」となりがちだ。また、何かの行動を起こそうとしている人も、「まずは経験を積んで、準備が整ったら挑戦しよう」という思考パターンが多い。

 僕のシリアでの経験は、日本でのその通例とは真逆のものだったように思う。
 僕はそれまでパワーポイント資料なるものを作ったこともなかったし、作り方も知らなかった。でもやらなければ大変なことになると思い、日本にいる友人から、参考になる本を送ってもらったりしながら必死に勉強して、いろいろなことを無理やりできるようにしていった。

 語学についてもまったく同じだ。
 なんとか村で生きていかなければいけない、言葉ができないと何も進まないという環境に追い込まれて、自然とできるようになっていった。

 つまらない話かもしれないが、シリアでは英語力も自然と身につけることができた。お恥ずかしい話だが、シリアに赴任したときの僕の英語力は、TOEICテストのスコアでいうと500~600点ぐらいだったと思う。それでも、帰国するときにテストを受けたら、900点を超えるくらいにはなっていた。シリアでも外国人としてたまに英語で話すことを求められて、そのときに「この日本人はアラビア語どころか、英語もできないのか」と言われては信頼を失うと思って、こそこそと必死に勉強せざるをえなかったのだ。

 当然のことながら、当時の僕にとって、語学にしろ何にしろ、何かのスキルを伸ばすということは目的ではなかった。ただ、そのスキルを伸ばさざるをえない状況に置かれていたから、必死になって学んだだけだ。
 僕は青年海外協力隊の経験によって、語学力、異文化コミュニケーション、ロジカルシンキングなどといった、いわゆる「グローバル人材」なるものに必要とされるスキルを結果的に身につけることになった。これらは、大学のときにいくら「これからはグローバルに戦えるスキルが必要だ」と言われても伸びなかった能力だ。