【寄稿】バイデン外交に欠けているもの=元USTR代表Photo:Alex Wong/gettyimages

――筆者のロバート・ゼーリック氏は米国務副長官、米通商代表部(USTR)代表、世界銀行総裁を歴任。著書に「America in the World: A History of American Diplomacy and Foreign Policy.(世界の米国:米外交と外交政策の歴史)」がある。

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 ジョー・バイデン米大統領の新たな国際政策には、大きな柱が一本欠けている。貿易だ。政権は政治的駆け引きを回避したがっている。民主党は議会でかろうじて多数派を維持しているにすぎず、党内には多くの経済的孤立主義者がいる。しかし、米国は世界の貿易ルールや商業設計の書き換え競争で脱落するわけにはいかない。

 即座に商機が得られるのが北米だ。北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)により、米国はメキシコの個々の工場の労働条件に異議を唱えることができる。政権はこの権限を利用し、誠実なメキシコ労働組合の設立を手助けできる。あるいは、メキシコからの輸入を阻止する言い訳に利用することも可能だ。新たなインフラ投資計画には、北米産品の調達を優先する「バイ・ノースアメリカン」政策を盛り込み、コスト低減や非競争的な談合の防止、互恵関係を促すべきだ。米国とカナダの鉄鉱労働者は同じ労組を共有しているため、北米大陸上での連携を支持するはずだ。米政府もカナダ産木材への制裁関税を撤廃することで、高騰している住宅建設コストを引き下げることができる。