来たるべき100億人・100歳時代をつくる 「3X」とは何か

三菱総合研究所の創業50周年記念研究の成果をまとめた『スリーエックス 革新的なテクノロジーとコミュニティがもたらす未来』は、「技術」と「コミュニティ」を未来創造のキーファクターに位置付け、これからの50年の未来創造を展望する。革新技術による社会変革「3X」について聞いた前編に続き、後編では、未来のコミュニティ「共領域」について、同研究プロジェクトのリーダーで、同社先進技術センター センター長の関根秀真氏に聞く。(聞き手/音なぎ省一郎、構成/フリーライター 小林直美)

人類は、技術とコミュニティで進化した

――本書では、ありたい未来づくりのために、技術だけでなくコミュニティに着目することの重要性が強調されています。

 いきなり壮大な話になりますが、ホモ・サピエンス20万年の歴史を振り返ると、技術とコミュニティは、常にセットで進化の原動力になってきました。技術が社会変革のトリガーとなり、人と人のつながりがそれを活用、伝播(でんぱ)させることで社会が進歩してきたのです。

 人類がこれまで生み出してきたさまざまな技術のうち、特に波及効果の大きいものは「汎用技術(GTPs:General Purpose Technologies)」と呼ばれます。汎用技術の定義は複数ありますが、経済学者リチャード・リプシーらは2006年に、新石器時代の「植物の栽培化」「動物の家畜化」に始まり、21世紀の「ナノテクノロジー」まで、24の技術を汎用技術に選定しました。詳しくは本書を参照していただきたいのですが、これらをざっと眺めるだけでも、人類がこれまで、技術とコミュニティの共進化によって繁栄してきたことがありありと分かります。

 古代の農耕・牧畜にまつわる技術は村落コミュニティの結束を強め、安定して食料を確保し、生きるための基盤になりました。また、産業革命以降の技術は工場や会社といった経済活動のコミュニティを大きく発展させ、物質的な豊かさを実現しました。

 そして、20世紀に登場したインターネットは距離の制約をなくし、グローバル化が一気に進みました。個人と個人が国境を越えて自由につながれるようになり、さまざまなイノベーションが生まれています。しかしその一方で、旧来の人のつながりは希薄化し、地縁、血縁、社縁に基づくコミュニティの解体も加速し、インターネットがナショナリズムや差別の温床になっている面も否定できません。

 個の分散化は悪いことではありません。Twitter、TikTok、YouTubeのようなプラットフォームを活用し、自由に発信することで人生を切り開く個人が増えていることは大きなプラス面です。こうしたテクノロジーのメリットを生かしつつ、負の影響をできるだけなくす社会の在り方を構想しなくてはいけないと考えています。