ドル円もクロス円(※)も、円が少し反発する動きになってきています。

 ところで、今週末にG7、G20といった国際金融会議が予定されているのですが、それを前にした円反発の動きに、日本の通貨当局者たちはひそかに喜んでいるのかもしれません。

(※編集部注:「クロス円」とはドル以外の通貨と円との通貨ペア。たとえば、ユーロ/円、英ポンド/円、豪ドル/円など)

 実は、一部の通貨専門家たちの間で、秘かな関心を集めていることがあります。それは、この1~2ヵ月間、各国政府が自国通貨安に対して、想定以上に気配りしている可能性があるということです。

 静かな驚きの声が最初に上がったのは3月で、スイスの通貨当局が自国通貨高阻止のため、対ユーロでスイスフラン売り介入に動いた時でした。一般的に、これは自国通貨高阻止を正当化させる行為と受け止められましたが、一部の専門家の理解はまったく正反対のものでした。

ユーロ/スイスフランの日足
ユーロ/スイスフランの日足
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 一部の専門家は、この行為を説明したスイス当局がしつこいくらいに「対ユーロでの介入」にこだわったことに注目したのです。

 つまり、これはあくまで「特例」であり、スイスだけが国際協調に反して自国通貨安への誘導に動いているわけではない、そんな釈明こそがスイス当局の伝えたかった「真意」と理解したのです。

大恐慌を悪化させたのは
通貨切り下げ競争だった

 現在は、100年に一度の危機とされ、1930年代の大恐慌再来リスクにさらされていると言われています。そんな1930年代の大恐慌の混乱を悪化させた一因が保護主義でした。

 世界同時不況の中で、各国が自国経済の回復を最優先したことから、混乱は一層の悪化を招いてしまったのです。その保護主義の具体例が通貨切り下げ競争でした。

 大恐慌再来リスクにさらされている現在、保護主義を回避し、国際協調を維持することが重要な課題になっています。その一方で、誰かが「抜け駆け」するリスクについて、息を潜めながら見守っているところでしょう。

 こんなふうに説明すると理解してもらえると思いますが、3月のスイスの行為を多くの市場関係者は「ついに『抜け駆け』が起こったのかもしれない」と受け止めたわけです。

 これに対して一部の専門家たちは、いつ「抜け駆け」が起きてもまったく不思議ない状況だからこそ、各国政府の意思統一(国際協調の維持、保護主義の回避、そして通貨切り下げ競争回避)は、一般の予想を上回るほど強固なようだと驚いたのでした。

 そして、そのような専門家たちの理解を再確認する動きが、今月中旬にありました。今度の主役はシンガポールでした。

 シンガポールは4月中旬に「金融緩和政策」を表明しましたが、その一方で自国通貨であるシンガポールドルの一段安の可能性を強く否定したのです。

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