白澤卓二(しらさわ・たくじ)
医学博士、医師
1958年神奈川県生まれ。1982年千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。1990年同大学院医学研究科博士課程修了。東京都老人総合研究所病理部門研究員、同神経生理部門室長、分子老化研究グループリーダー、老化ゲノムバイオマーカー研究チームリーダーを経て、2007年より2015年まで順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。2017年よりお茶の水健康長寿クリニック院長、2020年より国際予防医学協会理事長、日本アンチエイジングフード協会理事長、アンチエイジングサイエンスCEOも務める。専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学、アルツハイマー病の分子生物学、アスリートの遺伝子研究。
【著者からのメッセージ】
目指すのは、寿命を延ばすこと。
それが脳の健康につながります
私は20代の頃には免疫学を専門としていましたが、その後認知症の研究に方向転換をしました。当時はどうしたら認知症を治すことができるのか、そればかりを考えていました。しかしあるできごとから、治療よりも予防が大切と確信し、健康で長生きする方法を考えるようになったのです。
私の同級生ですい臓がんが専門の医師がいました。彼は優秀な専門医でしたが、なんと本人がすい臓がんにかかってしまったのです。そのがんはやがて彼の命を奪いました。同じ頃、卵巣がんを専門に研究していた友人の女医が、卵巣がんにかかり、命を落としてしまいました。私はくやしまぎれに「病気になった患者さんばかり見ていたから、その病気にかかってしまったのか?」などと言っていたのですが、そのとき思ったのです。それなら、健康で長生きしている人の研究をしたら、健康で長生きできるのではないか、と。
アンチエイジングには日々の食事が大切
当時、ほんの20数年前ですが、まだまだ健康増進を研究する人はいませんでした。医学=病気の研究だったからです。でも私は、年をとることが認知症の最大の発症要因である限り、老化を予防することができれば、認知症は防げる、減らせると考えました。
たとえば、人間の寿命が120歳であるとして、それを150歳まで延ばすことができたら、今、70~80歳以上で多く発症している認知症を、100歳まで引き上げることができるのではないか。100歳になるまでには、実際は認知症以外の原因で死亡する可能性も高くなるので、認知症はそれほど大きな問題ではなくなるのではないか。要するに、寿命を延ばせば丸く収まるということです。
2000年代に入り、さまざまな研究結果が発表されました。今では認知症は予防が大事、というのはごく一般的な考え方になっています。健康で長生きすることが認知症を減らすなら、健康であるためにはどうしたらよいか。それにはやはり毎日の食事が大きくモノをいいます。この本では、そんな食事のポイントをお伝えできたらと思います。