“根”の部分である家庭の教育力
布村 私は新任教員として京都府の公立高校に赴任しました。共学校で、進学コースと体育系コースがあり、自分の進む方向もはっきりとしていた。いま思えば生き生きとした“幹”の学校でした。
京都大や大阪大に進学する生徒がいる一方で、体育系の生徒は大会の結果で進学していきます。ウエットスーツの中にお湯を入れて、冷たいプールで練習している生徒もいました。朝6時から練習しているので、授業が始まる頃にはもうへとへとです。こうした生徒には、紙芝居やドリルで、最低限の教養として数学の公式を覚えさせていました。
――その後は25年間、東大寺学園にいらした。
布村 優秀な男子に囲まれている間に、少し世間に疎くなったかもしれません。50人が東大を受けて、100人が京大を受けて、残りが国公立の医学部を受けていましたから。
――みんな勉強はするものだと思っていますしね(笑)。
布村 一方、少子化が早く進行したことで、地方の公立高校は倍率が低下していることもあり、昔のように受験勉強への動機付けが困難になっています。子どもを取り巻く環境が変わってしまいました。
そういうこともあり、昨年11月にNPO家庭学習推進協会を仲間と立ち上げました。時間の使い方をベースに、これまで3回のイベントを行い、Zoomで中継しました。1回目のテーマは「言葉掛け」でリフレーミング(あるできごとに別の視点を持たせる考え方のこと)を、2回目は「スマホ」でSNSとの付き合い方を、3回目は「家庭学習」のコツについて話し合いました。
――“根”の部分であるご家庭での教育をしっかりやりましょう、ということですね。
布村 3回のイベントを通じて、結論とまではいかないものの、塾と家庭がつながる方が早いな、と思いました。“幹”に期待するよりも、“枝葉”と“根”を直接つないでしまう。
勉強にはリズムがあり、継続性が必要です。学力を定着させるためには習慣化が大事です。毎日宿題が出ているから、子どもたちは嫌々ながらも勉強し、それが力になっていると気付いて、定期テストなどで結果が出ることで小さな成功体験も生まれます。
――中間・期末の試験がある学校はまだ多いでしょうから、テストの結果は届くわけですね。
布村 そうなのですが、悪い点を取ると親から叱られるから「しまった」とは思うものの、「これはとんでもないな」といまの子どもたちは誰も思っていません。全部が悪循環で、学習を習慣化する宿題がないから、勉強が大切だという意識が薄れ、成功体験の機会も減って自己肯定感も育ちません。
――それがどうしたの、という感じですか。
布村 勉強が大切だと思っていないから、結果に対する執着がない。そのことをものすごく強く感じています。子どもを自立させたいと親は言いますが、自己肯定感が少ない子どもはなかなか自分から勉強しません。