共学化するなんてもったいない
鈴木 これは私見ですが、教育をゆがめている原因の一つは大学入試です。子どもたちの本来のモチベーションは、「知りたい」「面白くて仕方がない」といったものですが、そのようなことをやっていると入試に受からない。香蘭に赴任してきた時、「受験のためでなく自分の学びたいことを深く学べる学校にしたい」と強く思いました。
――それが一貫教育の良さでもありますし。
鈴木 自分自身はずっと男女共学で、大学受験も経験してきましたので、共学は否定しません。しかし、男子校を経験してからこちらに来ましたから、女子校の文化との違いは大きいと実感しました。
例えば、男子校と女子校の学校の教員を総入れ替えしたら、両方ともつぶれますよ。私は数学科の教員ですが、男子校でうまくいった授業を女子校でやっても、うまく行かない。男女では興味や関心の持ち方が全然違います。指導案にも性差への配慮が必要なのです。
男子脳に訴える授業では、女子は数学を嫌いになってしまいます。その逆も同様ですね。簡単な話ですが、女子校に来てそれを強く実感しています。
――教科の指導方法もすべて異なるわけですか。女子はバズ学習と言われるワイガヤ授業が向いている、と教育界でもよく指摘されます。
鈴木 そうですね。先生方は長年の経験から、性差を十分意識した授業展開をされているのだと思います。特に、男女の言語能力の性差は大きいようで、英語検定などの結果を見ても性差は明白です。
そして、真面目にコツコツと毎日の努力が続けられる。今朝も校門から校舎に向かう生徒の姿を見て、別の教員と「まるで二宮金次郎だね」と話しました。試験前でもないのに、単語帳を見ながら歩いている。就職試験でも、面接で話をさせたら男子はかなわないと聞きます。ある雑誌に「31歳まで性差が認められる」と書いてあって、なるほどと思いました。
――いますよね、女の子は。大学も男女別学の方がいいのかな(笑)。
鈴木 これは女子の特性です。男女共学校で、普通に入試をやったら女子が多くなってしまいます。そうならないよう、以前大学医学部での入試合格者操作が問題になりましたが、成績で女子の方が上位に来るのは仕方のないことです。
――女子には女子に合った学び方があると思いますが、数学はどうですか。
鈴木 いまは現場から離れているので分からない部分もありますが、立体図形の認識能力には違いがあるようです。一方で、言語能力の高い女子には、論理的な思考については早く訓練した方がいいと思います。そうなると男子はかなわない。追いつけるのは31歳どころではなくなるかな(笑)。
――本校の進路を見ると文系が多くて、理系が少ないですね。
鈴木 理系の私は、理系強化のために派遣されたわけではないとは思いますが、最近は女子がどんどん理系に進出していますね。
女子は強いようでいて、精神的にはそうでもない。健康そうに見えても、体の悩みをいっぱい抱えながら暮らしている。思春期の女性のデリケートな体を守ってあげなければいけない。女子校の教職員はそうした問題を扱うのが得意です。寄り添い方が違う。男女別学の良さはそこですね。
――大学の系属・付属校で男女別学なのは、学習院と立教くらいになりました。
鈴木 思春期に、異性の目を気にしなくていいというのは非常に大きい。中には男子の目が気にならないせいか、豪快な食欲を露わにしたり、なりふり構わず雨の中でびしょ濡れになって遊んだり……。そんな環境の中で自分らしさを実感する生徒がたくさんいます。男女別学は私立学校の特権です。
>>(2)に続く