前回は、「錯覚」や「ヒューリスティックス(複雑な意思決定を行う際に、暗黙のうちに用いている簡便な思考法)によるエラー」によって受け手が意図を取り違える例を見た。

 今回は、より単純な、「言葉の意味の取り違え」によるミスコミュニケーションを紹介する。極めて多発する例であり、原因も多岐にわたる。

【失敗例】シンクタンク主任研究員 上原氏のケース
「生産財とは生産のための財?」

 上原雄太氏は、中堅のシンクタンク兼コンサルティング会社、リレーションシップ・デザイン社の主任研究員だ。同社は主に消費財企業向けのブランドイメージやレピュテーション・マネジメントに関する調査、コンサルティングを行っている。30代後半の上原氏は、若手が多い同社の中ではベテランである。

 ある日、上原氏は中途入社の新人、豊田英司君を呼び、簡単な指示を出した。

 「豊田君、うちの会社には慣れたかい?」

 「そうですね。おかげさまで勘所はわかってきたかと思います。ところで、今日はどんなご用件でしょう?」

 「うん。豊田君も知っての通り、うちのクライアントは消費財メーカーか、もしくは一般消費者向けのサービス企業が多い。彼らはブランドイメージやレピュテーションを大事にしている会社だから、うちのメイン顧客であるのは当然ともいえるのだが、うちとしてはもう少し商売を広げたいと考えている」

 「それは確かにそうですね」

 「そこで豊田君には、“生産財”企業のブランディングやレピュテーション・マネジメントの現状について簡単にスタディしてほしい」

 「スタディはどのへんまでやればいいでしょうか?」

 「そうだな、まずは彼らの問題意識や、ベストプラクティスについて簡単に調べてくれ」