森 達也
第45回
自転車で角を曲がろうとしたそのとき、「コッカセイショウ」との声がした。思わずブレーキをかけて立ち止まってから、今のは本当に声だったのだろうかと考えた。普通の人の声ではない…。

第44回
この5月3日、朝日新聞労働組合が主催する「言論の自由を考える」シンポジウム第24回に、パネラーの一人として出席した。 24年前のこの日、兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局に男が侵入し、2人の記者に向けて、いきなり散弾銃を発砲した。

第43回
県道252を左折した車は、県道391を直進する。運転席でハンドルを握る安岡卓治がくぐもった声で、「たぶんあと10分くらいで第一原発に着くな」とつぶやいた。

第42回
無知と偏見は過去形ではない。(僕も含めて)現在進行形だ。そして未来に続く。ならばこの社会は、きっとまた同じ過ちを繰り返す。

第41回
タイガーマスク騒動。そもそもはこれが大手メディアで報道されるようなニュースバリューを持つことかどうか、まずはそこから考えなければいけない。他の日だったらニュースになどならなかったはずだ。

第40回
2010年11月7日、かながわ県民センターホールで行われた『撫順の奇蹟を受け継ぐ会』のシンポジウムにパネラーとして参加した。この日のメインスピーカーは、今年97歳になる元皇軍兵士の絵鳩毅だ。

第39回
戦場写真家のジェームズ・ナクトウェイに会ってきた。ナクトウェイが撮る写真は、それまでも何度か目にしていた。彼の写真は、目を覆いたくなるほどに凄惨で無惨で、そしてどこかしら絵画的な美しさがあった。

第38回
この10月、『不食の時代』というタイトルのドキュメンタリー映画が公開される。……と、書き始めながら気づいたことだけど、僕が今使っているワードの日本語変換システムは「ふしょく」と打っても「不食」と変換しない。つまり「不食」という日本語はない

第37回
なぜ高校球児たちは坊主刈りを強制されるのだろうか。テレビを見るかぎり、高校球児たちはいまだにほとんどが、昔と同じような丸刈りだ。少なくとも長髪などいない。

第36回
ふと気がつけば、一時は連日のように報道されていた足利事件関係のニュースや記事を、テレビや新聞で目にすることはほとんどなくなった。ある意味で当然だ。冤罪であったことが証明されたのだから。 ただし(真犯人は結局見つかっていないことなども含めて)問題はまだ多く残されている。

第35回
ツイッターって何ですか。ツイッターの本質を理解するためには、実際にツイッターを自らやるしかない。ネットはすさまじく便利だ。時空を越える。だからやっぱり(強引な論理だけど)、僕はツイッターはやらない。

第34回
反捕鯨団体シー・シェパードのアディ・ギル号と日本の調査捕鯨船との激突は、批判されて当たり前だし、自業自得だ。でもそれはそれとして、敵船にたった一人で当たり前のように乗り込んできたことに、集団行動が得意な日本人の一人として僕はちょっと感銘を受けた。

第33回
2010年大相撲夏場所。序盤戦から上位力士たちの勝敗は荒れ模様。千秋楽を迎えたこの日、国技館は異様な熱気に包まれていた。なぜなら、横綱白鵬、大関日馬富士、大関琴欧州、関脇把瑠都の4力士が、すべて12勝2敗と横一線で並んでいたからだ。

第32回
新聞を読みながらふと思う。何かが変だ。テレビのニュースを見ながら思う。やっぱり何かが変だ。何か変だと思ったのは、足利事件再審についての報道だ。

第31回
つい先日、西日本の地方都市に講演で呼ばれた。終了後に控え室で、動物愛護センターに勤めている女性から犬や猫の処分の話を聞いた。炭酸ガスで殺す…確かに“安楽死”ではない。

第30回
ずっと子供の頃から、イースター島って何となく無人島のように思っていた。でも実のところ人の世界観は、こうした淡い思い込みで形作られている。僕は自分の淡いイメージを書き換えた。

第29回
先日、岡田克也外相は国会開会式での天皇陛下の「お言葉」について、「陛下の思いが少しは入った言葉がいただけるような工夫を考えてほしい」と宮内庁に検討を求めた。この発言に対して、批判が集中している。

第28回
テレビは一過性だが、映画は観続けられる。その結果、視点が変わり作品は安定しない。絶えず揺さぶられる。視点が変わるその理由はいくつかあるけれど、最も大きいのは社会環境の変化だ。

第27回
ノルウェーでは殺意ありきの殺人事件は年間に1件あるかないか。懲役は最高刑で21年。どんなに凶悪な事件の加害者だとしても、仕事と住まいが保証されるため、再犯率は低い。

第26回
精神障害者たちをモザイクなしで撮影したドキュメンタリー映画『精神』が、静かだけど大きな話題になっている。東京では現在、シアター・イメージフォーラムで上映されているが、連日大盛況らしい。
