岸田文雄政権は異次元の少子化対策を掲げる。財源は増税ではなく、歳出削減と医療保険など社会保険料の引き上げとなりそうである。皮肉なことに、社会保険料の引き上げがこれまで少子化を助長してきたことは否めない。(BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト 河野龍太郎)
危うい異次元の少子化対策
財源を社会保険料に求めるリスク
2022年の出生数はコロナ禍の影響もあり、80万人を割り込んだ。1899年の統計開始以来、最低の数字だ。
多くの国でもコロナ禍で出生数は落ち込んだが、その後、リバウンドしたのに対し、日本では婚姻数の戻りさえ限られる。婚外子が少ない我が国では、婚姻数は出生数の先行指標となるため、今回の出生数の落ち込みは一過性とは言い難い。
出生数急減という国難に対し、岸田文雄政権は「異次元の少子化対策」を6月の骨太方針に盛り込む。財源は年末までに結論を出すが、増税議論は封印され、現段階では歳出改革のほか、医療保険など社会保険料の上乗せが取り沙汰されている。
ただ、社会保険料上乗せは、企業の人件費を膨らませる。経団連の十倉雅和会長は、賃上げへの悪影響を避けるべく、税による幅広い社会負担が必要と警鐘を鳴らす。筆者も同感だが、問題はそれだけではない。社会保険料を財源にすると、むしろ少子化を助長するおそれがある。それが本稿のテーマである。
次ページ以降、そのメカニズムを解説していく。