
田渕直也
第2次トランプ政権の発足から半年が経過し、米国の政治と経済は再び世界の注目を集めている。関税の乱発、同盟国への恫喝、中央銀行への圧力など、常識や秩序を覆すかのような政策が次々と打ち出され、国際協調の枠組みは揺らぎ、米国内の分断も一層深まっている。こうした“滅茶苦茶”とも言える政権運営を目の当たりにして、多くの専門家はその持続可能性に疑問を呈してきた。しかし現実には、トランプ政権は予想に反して一定の成果を上げているように見える。トランプ政権が打ち出してきた一見支離滅裂ともいえる政策群が、なぜ一定の成果を挙げているのかについて、具体的な経済指標や市場の反応、国際社会の動向を踏まえながら多角的に検証する。

普段、一般の注目を集めることの少ない超長期金利がスワップ金利を大きく上回る形で上昇している。その背景には単なる需給の変化を超えた、経済や財政への深い懸念が潜んでいる可能性がある。市場が求めるリスクプレミアムの上昇は、国債の「安全資産」としての性格に変化が起きつつあることを示唆しているのかもしれない。国債利回りとスワップ金利の乖離を手がかりに、財政リスクがどのように超長期金利に反映されているのかを読み解き、資産価格の下落や市場の信認喪失による副作用がいかに実体経済に波及し得るのか、トラス・ショックの例を踏まえて検討する。

トランプ政権による高関税政策の影響が日銀の金融政策運営に重くのしかかっている。米国はインフレと景気減速の狭間で年内複数回の利下げが予想される一方、日本はようやく正常化に踏み出したばかりで、追加利上げの見通しが揺らぎつつある。ドル安志向を背景とする円高圧力にさらされる中、日銀は物価安定と為替安定の双方を維持しなければならないという難題を抱えている。グローバルな金融政策の非対称性、為替市場への政治介入の可能性、そして日本の超長期金利上昇が示す財政負担の増加など、日銀の政策判断に過去にない複雑性が加わっていることを論ずる。

相互関税政策の発動により進行するドル安と金高は、基軸通貨ドルへの信認の揺らぎを映し出す。人民元や仮想通貨もドルの代替にはなり得ず、「代替なきドル」体制が金融市場に不安定性をもたらしている。ドルの構造的課題と今後の波及リスクを多面的に読み解く。

トランプ政権の発足から一カ月半が経過し、米国の政治・経済の動向が世界市場に衝撃を与えている。トランプ大統領は関税強化や政府効率化省(DOGE)による行政改革など、大胆な政策を次々と打ち出しているが、その影響は必ずしも米国経済にとってプラスとは言い切れない。長期金利の低下や景況感の悪化が進む中、市場ではスタグフレーションのリスクすら意識され始めている。本稿では、トランプ政権の経済政策の全体像を整理し、関税政策やDOGEの影響を分析する。また、市場のボラティリティ上昇が今後の金融政策に与える影響を検討し、日本経済への波及効果についても考察する。

トランプ政権発足後、米長期金利は上昇すると予想されていたが、意外にも低下傾向を示している。関税政策や政府効率化省(DOGE)の影響が市場に不透明感をもたらす中で、トランポノミクスが本当に米国経済にとってプラスとなるのか、その効果とリスクを慎重に見極める必要がある。トランプ政権の政策には景気を押し上げる要素と抑制する要素が混在している。関税の引き上げはインフレ要因となる一方で、DOGEによる政府支出削減はデフレ圧力をもたらす。さらに、減税政策が景気を刺激する一方で、財政赤字拡大とインフレ加速のリスクを伴う。これらの要因がどのように作用し、米長期金利の動向に影響を与えるのかが重要な論点となる。トランポノミクスの主要政策を整理し、それらが米経済や金融市場にどのような影響を及ぼすのかを分析するとともに、トランプ大統領が金融政策への影響力を強める可能性にも注目し、FRBの対応がインフレ管理に果たす役割について考察する。

日本の長期金利が13年半ぶりの高水準に達しているにもかかわらず円安が止まらない。この現象は日本と米国の金融政策が逆方向に進む中、日銀が抱える課題と市場が直面するリスクを浮き彫りにしている。1月の日銀・金融政策決定会合における利上げの可能性に加え、円安が進行する理由として長期金利差の影響を分析し、日銀が進める緩やかな利上げが円安抑制にどの程度寄与するかを検証し、米国の金融政策が日本の為替市場に及ぼす影響や、今後の円相場のシナリオ、円安が続く中で、日本経済が直面する輸入インフレや金利政策の限界に焦点を当てる。

米国株式市場が史上最高値を更新する中、バフェット指数やCAPEレシオといった指標が歴史的な水準に達し、米国株の割高さが示されている。一方で、膨大な投資資金の存在が割高な米国株を支えている。米国株が割高な状態が続く理由を市場関係者の楽観論だけでなく、長期的な投資収益率の低下や、潜在的な市場調整の可能性を示す。

米国経済が予想を超える堅調さをみせており、米大統領選直後の米連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利下げが決められるかは微妙なところ。米大統領選の直前情勢を確認するとともに、トランプが勝利した場合とハリスが勝利した場合の市場の反応を予想するともに、米大統領選直後の11月FOMCで0.25%の追加利下げの公算が高いことを解説する。

9月にFRBは0.50%の大幅利下げに踏み切る一方、日銀は着実に利上げを推進していく方針を明らかにしている。米国の利下げと日本の利上げにより日米の金利差は縮小し、それに伴って、為替では円高、株式市場では日本株のアンダーパフォーマンスがしばらく続く、というのがよく聞かれる構図だ。しかし、市場はこうしたシナリオをすでに織り込んでいることを指摘するとともに、今後、注目すべきは日米の”ターミナルレート”を見据えたうえで、日米金利差の縮小ペースを再考することにあると論ずる。

9月18日に予定されている連邦公開市場委員会(FOMC)での焦点は、利下げの有無ではなく、利下げ幅に移っている。市場は年内に計1%、来年末までに計2.25%の利下げを織り込んでいるが、米景気が今すぐ後退入りするとの見方は少ない。米景気の先行き懸念が高まらない中、市場が米FRBによる大幅利下げを織り込む理由を解説するとともに、利下げ後の為替・株式市場の先行きを展望する。

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第8回
コロナショックによる構造変化で、バブルやインフレは起こるのか?
コロナショックで進んだ超金融緩和、超低金利といった構造変化によって、いったい何が起こるのだろうか? バブルは起こるのか? インフレは起こるのか?『ファイナンス理論全史』などの著書がある金融アナリストの田渕直也氏の寄稿後編をお送りする。

第7回
米国で大躍進する素人「ロビンフッダー」に対し苦戦する著名投資家…コロナ禍と株式ポピュリズムで金融はどう変わるのか?
米国では、「ロビンフッダー」と呼ばれる素人投資家が大躍進する一方で、著名な投資家たちが大苦戦を強いられている。コロナショックは、私たちの暮らしだけでなく、金融の在り方も変容させた。いったい金融市場で、何がどう変わったのか? 「株式ポピュリズム」はますます進むのか?『ファイナンス理論全史』などの著書のある金融アナリストの田渕直也さんによる緊急寄稿をお届けする。

第6回
1億人に1人という長期的成功を続けるバフェットによるランダムウォーク理論への反論
「オマハの賢人」バフェットの成功はどの程度なのか、数字で検証してみると、年平均リターンではそれほど突出しているとは言えないようです。でも、それを60年続けられてきた秘訣とは? ファイナンス理論の歴史とポイントをまとめた新刊『ファイナンス理論全史』の一部をご紹介していく本連載、今回はバフェットの凄みと、それを反証とするランダムウォーク理論への反論についてです。

第5回
ファンドマネジャーの成績が市場平均を下回るのはなぜか?インデックスファンド革命の衝撃
ファイナンス理論の歴史とポイントをまとめた新刊『ファイナンス理論全史』より一部をご紹介していく本連載。今回は、「相場は予測できないものであり、それはファンドマネジャーも同じことなので、インデックスファンドを買うべし」という、身もふたもない、しかし本質的な思想に基づいた“インデックスファンド革命”を振り返ります。

第4回
ブラック=ショールズモデルが批判され続けながらもスタンダードであり続ける理由
ファイナンス理論の歴史とポイントを追っていく『ファイナンス理論全史』より一部ご紹介していく本連載。今回ご紹介するのは、理論と実務が一体となって発展してきたデリバティブの存在と、その理論的発展の歴史の中でも最も特筆すべきといえる、ブラック=ショールズ・モデル(BSモデル)についてです。学界と実業界を行き来する先駆者的存在であり相当風変りだったというブラックと、MITスローン・スクール准教授だったショールズの出会いとは?そして、批判を受け続けてきたBSモデルが今もスタンダードであり続ける理由とは?

第3回
ランダムウォーク理論から半世紀。「効率的市場仮説」に発展させたユージン・ファーマの功績
前回取り上げたランダムウォーク理論は、不遇の数学者バシュリエの時代から半世紀ほども経ってようやくアカデミズムの世界に徐々に受け入れられていった。それでも、相変わらず投資家や実業界からは強い反発を受け続けた。その両陣営のにらみ合いに決定的とも言える大きなインパクトを与えたのが、1960年代から70年代にかけて、シカゴ大学ブース・ビジネススクール教授のユージン・ファーマが行った研究である。

第2回
ファイナンス理論の扉を開きかけた不遇の数学家バシュリエの「ランダムウォーク理論」
現代ファイナンス理論は1950年代以降に確率されてきた、比較的新しい学問です。本連載は、100年分の理論の発展とポイントをまとめた新刊『ファイナンス理論全史 儲けの法則と相場の本質』のエッセンスを紹介していきますが、まず、この学問の扉はどのようにして開かれたのか?実は、半生記以上を経て再評価されたある不遇の数学者がその立役者なのです。その人、ルイ・バシュリエの人生と、彼が発見したランダムウォーク理論を分かりやすく解説していきます。

第1回
相場で勝ち続ける秘法「聖杯」の存在と、それに限りなく迫った投資家とは?
巨額のマネーが流れ込む金融市場の構造や、人々を翻弄する価格変動のメカニズムを解き明かそうと、これまで数多くの天才たちが挑んできました。そうして築き上げられてきた「現代ファイナンス理論」ですが、それは果たして我々に何を教えてくれるのでしょうか。『ファイナンス理論全史 儲けの法則と相場の本質』の刊行を記念して、本連載ではそのエッセンスをご紹介していきますが、初回は著者・田渕直也さんに本書執筆の狙いや、相場で勝ち続ける難しさとそのヒントについて聞きました。
