英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週は尖閣諸島沖の漁船衝突ビデオ流出についてです。と言っても、英語メディアの反応はどちらかというと薄いのですが。「ウィキリークス」による大リークにはあんなに騒いだのに。衝突ビデオ流出について「政府の管理体制」とか「犯人はだれだ」を気にする日本メディアと違って、英語メディアはもっぱら日中関係の悪化や、日本の右傾化を気にしているようです。(gooニュース 加藤祐子)
アジア担当は忙しい?
先週のコラムはロシアとの領土問題、そして今週は中国との……。これが今の日本を取り巻く状況です。中国漁船が海上保安庁の巡視船にわざと衝突しているように見える映像の内容が問題なのか、そもそも政府が映像を国民にきちんと公開してこなかったことが問題なのか、YouTubeにリークするという行為が問題なのか、それとも流出を可能にした当局の体制が問題なのか――。どこに真の問題があるのかきちんと整理されないまま、日本では連日報道が続く、漁船衝突ビデオ流出。冒頭で書いたように、英語メディアはさほど大きく扱っていません。
メディア各社のアジア担当が、オバマ米大統領のアジア歴訪やソウルでの G20サミット、横浜でのAPEC首脳会議などで忙しいからかな……という気もします。ビデオ流出については通信社を中心に複数社が事実関係を伝えていますが、論評的なものがまだ見つかりません。尖閣諸島をめぐって日中が揉めてるのはもう分かったから、ビデオ流出は若干「細かい話」扱いされている気もします。「ウィキリークス」によるイラク戦争機密情報の大流出は大ニュースとなりましたが(ちなみに、尖閣ビデオが流出された前夜、NHK「クローズアップ現代」が「ウィキリークス」を取り上げていました。皮肉な偶然だと思いました)。
『ニューヨーク・タイムズ』紙ではニュース・ブログの担当者がやはり事実関係のみを紹介。『ワシントン・ポスト』紙や『ロサンゼルス・タイムズ』紙は今のところAP通信の記事のみです。
「日本当局、漁船ビデオリークを捜査(Japanese authorities investigate boat video leak)」という見出しのこの8日付記事でジェイ・アラバスター記者は、「ビデオの流出によって、今週のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で緊張が再燃するのではと懸念されている」と指摘。13-14日に横浜で開かれる首脳会合に胡錦濤主席は出席すると中国側は8日に発表したが、「中国外務省の劉振民次官補は、両首脳の会談の予定について情報は把握していないと述べた。この発言は、首脳会談の可能性すら否定するものと見られる」と書いています。
記事はさらに尖閣諸島の領有権をめぐっては、6日に都内で開かれた反中デモに3000人以上が参加したことや、中国でも複数都市で学生たち数千人が日本に抗議したと短く紹介。その上で、読売新聞社と中国・新華社通信発行の週刊誌による日中共同世論調査に言及し、日本では過去最多の87%が中国を「信頼できない」と答え、中国でも79%が日本を「信頼できない」と答えていると伝えています。
英『フィナンシャル・タイムズ』紙はビデオ流出直後の5日、これで「東アジアの大国同士の間で緊張関係が高まるかもしれない」と書いています。日本が漁船船長を釈放したにもかかわらず、両国関係はまだ「正常な状態に戻っていない」とも。ビデオ流出は、「政府が不承不承ながら、もっと短く編集された衝突映像を一部の国会議員に見せた」わずか数日後に起きたことも、紹介しています。
記事はビデオ映像について漁船が「自分よりもずっと大きい海上保安庁の船の船尾に、意図的に衝突したように見える」などと紹介。「おい、止まれ! 来るぞ!」と日本語で叫ぶ声も聞こえると書いています。
ここでちょっと英語ウンチクですが、「おい、止まれ!」の部分を『フィナンシャル・タイムズ』は「Oy! Stop!」と英訳しています。かねてから面白いなあと思っていたのが、このイギリス語の「Oy!」という表現。まさに「おい」と発音します。アメリカ語にはない表現です。イギリスでは日本と同じ感じで「おい!」と言うのが、たまたまの偶然にしろ面白いなあ、と。人間が「おい!」と言いたい時に口をついて出てくる音というのは、似るものなのかなあ、とも(アメリカ語だと「Hey!」でしょうか)。ちなみにイギリス語の「Oy!」はかなり詰問というか咎める調子が強いので、使う際にはご注意を。それから「Oy Oy」と二度繰り返しても日本語の「おいおい」的な語感にはなりません。タメイキ混じりに「おいおい」と英語で言いたい場合は、「Oh, come on....」とか「Oh, Jeez....」とか「Oh, really....」、イギリス人相手限定で「Oh, I say....」とかでしょうか。
話を戻します。記事は、中国政府外交部が「いわゆるビデオは、事実を変えることも、日本の行為の違法性を覆い隠すこともできない」とコメントを発表したことに触れ、かつ「中国ではYouTubeの閲覧がブロックされているが、中国のインターネット利用者は、注目の話題に関するビデオを国内動画サイトにアップロードすることが多い」と説明。5日朝には、2度ある衝突の片方について、映像クリップが主要ニュースポータルサイトに掲載されていたとのこと。全映像が国内動画サイト「Ku6」に一時的に掲載されていたが、後に削除されていたとも説明しています。ちなみに「Ku6」の動画ページにはユーザーが「明らかに向こうが当ててきた!」とか「よく当てた!」などのコメントを書き込んでいたとか。
中国の『人民日報』(英語版サイト)は英字新聞『チャイナデイリー』の記事を掲載。記事は淡々と、ビデオ流出について日本当局が刑事捜査を開始したこと、菅首相が国会でビデオの「管理不行き届き」を謝罪し「ビデオが本物だと認めた」こと、中国外交部が「日本の違法行為を覆い隠すことはできない」とコメントしたことなどを列記。さらに、確かにビデオは日本の違法行為を隠蔽するものではないが、「いわゆる」証拠は関係改善の妨げとなるし、一部日本人の反中感情を刺激するだろう――という、上海交通大学の王少普教授のコメントも紹介しています。
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