編み手さんのプロ意識を再確認させた
HBS学生の質問とは?
御手洗 なかでも、彼らが編み手さんにしたある質問は忘れられません。
「皆さんは、この地から世界に羽ばたく“気仙沼ニッティング”というブランドの、最初の編み手になるわけです。その最初の編み手として、どういうレジェンドになりたいですか?」と聞いてくれたんです。
私たちの会社を、その心意気や想いや目標を、なんて深く理解してくれているんだろうと感動しました。「いい質問は、相手へのギフトになる」ということが稀にあると思います。HBSの学生さんのたったひとつの質問で、編み手さんたちは「そうか、気仙沼ニッティングはずっと続いていく会社で、私たちはその最初の編み手なのか。のちにレジェンドとして、思い出される立場にいるんだ」と認識できた。編み手さんたちの心境や心構えを大きく前向きに変えてくれる質問だったと、ありがたく思っています。
山崎 それはとても感動しますね。
御手洗 HBSの学生たちが生み出す大きな価値やインパクトがあるとしたら、こういうことだと私は思うんです。アメリカからわざわざ飛行機に乗ってやってきたHBSというエリート校の学生さんが、私たちにこんな質問をした。それは、ずっと編み手さんの心に残るでしょう。大きな誇りになったはずですし、編み手さんたちがそのように思ってくれることは、会社にとってもなによりうれしいことです。あれは本当にギフトでした。
山崎 その質問をされた編み手さんは、今もいらっしゃるんですか。
御手洗 います。
山崎 みんなのプロ意識がさらに強くなったでしょうね。
御手洗 そうなんです。ある編み手さんはその質問に対して「自分は70歳を過ぎてから編み手になりました。70歳を過ぎてからでも新しい分野のプロフェッショナルになることができる。その姿を、いろんな人たちに見せたいです」と言いました。それは、その方の“地に足の着いた目標”ですよね。「世界一の編み手になる」といった曖昧な夢ではなくて。自分がそう答えたことを、その方自身が今もずっと覚えているし、意識されていると思います。私自身もその答えは非常に心に残っています。
山崎 本当に嬉しいですよね。HBSの各チームは最終日にプレゼンテーションをするのですが、気仙沼ニッティングのチームメンバーのうちのひとりは「気仙沼ニッティングのケース作成は、働くということの意味を深く考えるきっかけになりました。働くというのは、誇りであり人生の意義でもある、ということに気づかされたんです」と発表していました。
御手洗 嬉しいです。本当にチーム全員、素晴らしかった。繭加さんの『ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか』にもありましたが、みんな、ナイスな人たちなんですよね。私たちの会社を取材しケースを作成してくださるのですから、たとえば「僕らがあなたたちの会社をケースにして、世界に発信してあげるよ」という上から目線であってもおかしくない。でも、そんな姿勢は微塵もないんです。全員が謙虚に学びにきたという姿勢が徹底していました。