実務に関するアドバイス以上に価値がある、
外から来る人だけに起こせる「変化」

御手洗 これまで取材にいらっしゃる方々の中には、社長である私には丁寧だけど、編み手さんたちには上から目線で接する人も少なからずいました。でも、HBSの学生さんたちはまったく違った。たとえば、ある学生が編み手さんに話しかけようとしたら、ほかの学生が「今は集中されてるんじゃない?もう少しあとでお声かけしよう」と制したり、私に「あの編み手さんに話しかけてもいい?」と確認したりする。話を聞く時も終始丁寧でした。編み手さんは日本語で話すので、通訳が入るまでは何といっているかわからないはずなのですが、ずっと目を見て話を聞いていました。なんて素晴らしいんだろうと。

山崎 そうなんですよね。全員が全員とは言えないかもしれませんが、私自身もそう感じることが多かったです。起業家だけでなく周囲の人、たとえば地域のお婆ちゃんとか、漁師さんとか、そういう人からも学ぼうという姿勢がとても強い。

御手洗 すべての人に対してリスペクトがあるんですよね、きっと。

「HBSの学生には純粋に人への尊敬というのがベースにある」と山崎さん

山崎 そう、純粋に人への尊敬というのがベースにあるんだと思います。

御手洗 繰り返しになるかもしれませんが、HBSの学生さんが東北に来ることで、受け入れ側の企業にとって何が一番の価値かというと、やはり働いている人へのインパクトだと思うんです。社内にいる社長と従業員だけでは起きなかった変化を、外から来た人だからこそ起こせる。しかも、それは、たった3日、いえ、たった1日でも起きる可能性があるんですよね。

 私自身は東京生まれですし元々コンサルタントだったので、HBSの学生さんと若干近い世界にいたと思います。でも、ずっと気仙沼で主婦をされていた編み手さんにとってHBSはすごく遠い存在です。そういう遠い存在の人たちが、自分と真摯に向き合って、他では一生得られないようなギフトとなる質問をしてくれる。そして自分自身が変わっていく。これは最大の価値です。

 もちろんこれは、HBSに限りません。どんなコンサルティングやボランティアにだって、そうした価値は生めると思います。ただ、そういう大きな価値を生むには、相手を深く理解しなければならないし、真摯に話を聞く姿勢が大切です。どんなに力量がある人でも短期間でそれができると驕らないほうがいいし、自分は役に立つと思い過ぎないほうがいい。そのことを『ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか』に詳しく書かれたHBSのIXPプログラムから学べるのではないでしょうか。(後編につづく)