──だから著名な哲学者たちを、現代に合ったキャラクター設定にしたんですね。ニーチェがオタクのゲーム開発者として現代に降り立った…という奇想天外な設定には驚かされました。
それぞれの哲学者について書かれた歴史本を読むと、その人がどういう生い立ちで、どんな人生を送ったのかだけでなく、性格や趣味・思考、外見なども書かれているので、その人の「人となり」が何となく見えてくるんです。そうなると、その人に親近感がわき、発言も理解しやすくなる。この感覚を今回の小説でも表現すれば、読者に広く共感を得られるのではないかと思い、「哲学者をキャラクター化して、デフォルメする」という方法を取りました。
例えば、ニーチェは「こだわりの強いオタク気質」ですが、見た目やファッションにこだわりがあり、健康に気を使ってココアを愛飲する半面、お酒も嗜む。そこから、ココア片手にスマホゲームの開発に没頭する姿や、ときにデリカシーのない率直な発言をするというキャラクターを思い浮かべました。割と私のオタク系友人に近しいタイプという印象を受けたので、話し方や言葉遣いは哲学者好きの友人を参考にしています。
キルケゴールはとてもロマンチストでナルシスト。「父が女中に産ませた子ども」という自身の生い立ちを知り、それを悲観して放蕩の限りを尽くすも、自身の男性機能の不能が原因で婚約破棄となった女性にお金を送るという一面も持ち、「独自の生き様」を確立した人。そこから「黒づくめの独特のファッションに身を包む、気高い孤高のカリスマ読者モデル」を発想しました。彼の生涯におけるメインテーマは「人はどう生きるか」。私も常に考えているテーマであり、非常にシンパシーを感じる哲学者です。
そのほか、サルトルはタウン誌の編集長やガールズバーのオーナーなど手広く事業を展開する実業家、ハイデガーは小さなことに動じない落ち着きを持つ京都大学の教授、ヤスパースは人当たりがよく穏やかな医師など、私が得たイメージをそれぞれ、現代的なキャラクターに落とし込んでいます。