上原浩治がメジャーで成功した理由は
骨の使い方にあった!

松村 先日、アメリカでレッドソックスの上原浩治投手のピッチングを見る機会があったのですが、彼はすごかったですよ。毎回、背骨の位置を微妙にずらしながら投げているのがわかりましたから。
 3塁側のスタンドからじっと観察していたんですが、バッターはタイミングがとれないので、すごく打ちにくい。去年の怪我から復帰したばかりでしたが、やっぱりメジャーに通用するだけのことはあるなって思いました。41歳であのピッチングはすごいと思いますよ。あばら骨(肋骨)をやわらかくすると、もっと動きがよくなるでしょうね。

渡辺 あばらの一帯をほぐすのはいいですよね。骨ストレッチにもありますが、拳でグリグリとマッサージすると、上半身の可動域が広がって、呼吸がとてもラクになります。

松村 あばら骨のまわりというのは、じつはさまざまな筋肉の密集地帯なんです。ここをもっと柔軟にすれば、それだけですごい力が出せるようになることを知ってほしいですね。

渡辺 昔はあばらなんてまったく考えてないで走っていましたから(笑)。意識していたのは、手と足と背筋くらいで。
 骨という言葉自体が出てこないですよね。あばら骨の一帯を意識していたとしても、大胸筋という言葉を使ったり。

松村 同じ場所を意識していても、大胸筋を鍛えようとすると体幹が固まって、体が動かなくなるんですよ。

渡辺 鍛えた筋肉が逆に重荷になってしまうんですよね。普通は、鍛えれば、いまよりももっと体が動かせると思うわけですが……。

松村 固めるよりゆるめることが大事なんです。実際、しっかりトレーニングするより、ケガなどで休んでいたほうが体が硬化せず、試合でかえって結果が出せることも多いんですよ。

渡辺 うまくサボることも大事ですよね。僕は陸上のコーチもしているのですが、そこがなかなか伝わらなくて。

松村 サボれる人のほうが、本当は伸びるんです。

渡辺 ええ。ですから、あえてハードな走り込みを課すこともあります。余裕がなくなってくるにつれ、余計なことを考えなくなり、無駄な力を抜くことを考え出しますから。

理想の体の使い方は、
筋肉と骨のバランスにあり

松村 ゴルフの場合でも、ドラム缶3杯分くらい打ち込めと言いますね。ヘトヘトにならないと、筋力に頼って打とうとするクセが抜けないので、極限まで体を使わせようとするわけです。

渡辺 あえてやるという感覚が大事ですね。

松村 ええ。ただ、一度コツをつかんでしまえば、そこまでやらなくてもいいかもしれません。
 会社でもベテランが頑張りすぎると、新人は育たないでしょう?人の体も、筋肉ばかり使っていると骨はずっと埋もれたままで、効率のいい動きがいつまで経ってもできません。
 筋力を否定しているわけではなく、骨を利用することで筋肉もフルに活用できるようになります。私自身、熱心にウエイトトレーニングをやっていた現役時代よりいまのほうが、素早く、自在に動けるようになりました。

渡辺 筋肉の世界だけでなく、かといって骨の使い方を覚えるだけでもなく、陰と陽が合わさった中庸が理想の体の使い方だと思いますね。僕はいま、この中庸を追求しているんです。

松村 ええ。目に見える筋肉が陽だとしたら、目には見えない骨は陰になります。骨を意識するということは、体の内側に目を向けるということですから、感性や感覚を磨くことにつながっていきます。いまは、体の外側ばかり気にしすぎていますよね。

渡辺 日本の陸上競技も、そうした筋肉主体の発想が変わってくるともっと結果が出て、面白くなってくる気がします。ジャマイカの選手の走りを見ていると、やっぱり魅せられますから。

松村 骨身で動いていると体の切れ味が良くなり、たくさんの人を魅了する動きができるようになるんです。筋力ばかりだとぎこちなく、世界レベルの動きについていけないでしょうね。