日本で最も多く質問をし、思考を重ねてきたトップレベルのエグゼクティブコーチが10年来の探求と実践の成果をまとめた書籍、『良い質問をする技術』が発売されました。雑談・商談・会議・打合せ・取材で役立ち、上司・部下・取引先・家族・友人に感謝される「良い質問」とはどのようなものなのか?そのエッセンスを紹介する連載の第7回です。
質問は「内在化」する
さて、そろそろこの連載も終わりとなりますが、ここで私が特に重要だと考える、1つの質問の性質をお伝えしておきましょう。
それは、「質問は、人の中に内在化する」というものです。
ここまでお話ししてきたように、質問には、「そもそも人の心を強くとらえ」「指示・命令よりも人の心にすっと入り」「ひらめきと自発的行動を促す」といった性質があります。
そのために質問は、他のどんな言葉よりも、人の心の中に留まりやすいのです。特にそれが「答えのない質問」であるとき、内在化の力はとても大きなものになります。
私の中にも、「エグゼクティブコーチとはなにか?」「優れたエグゼクティブコーチとはどういう人間か?」といった質問が内在化していることはすでにお話ししました。内在化した質問は、人間を1つの方向へ向かわせ続ける、強力なエンジンとなるのです。
しかし、内在化した質問は、必ずしも「良い質問」であるとは限りません。あるいは、「良い質問」であり続けるとも限りません。
すでに事例をご紹介したとおり、質問は人の意識を固定化し、組織の文化を決める力があります。人間の日々の行動を決めるのも、その人の中の質問です。もし、あなたが手に入れたいものに結びつかない質問が内在化し続けたら、欲しいものはいつまでも手に入りません。
私たちプロのエグゼクティブコーチの仕事は、クライアントの中で内在化した質問と向き合い、それをクライアントにとってより価値の高いものにすること、とも言えるのです。
実際、私が何回ものコーチング・セッションで行なっているのは、
・クライアントに、内在化した質問に気づいてもらい
・内在化していない質問を投げかけ
・クライアントの中に、新たにより価値の高い質問を内在化させる
ということ。
そしてそれを可能にするのが、「良い質問をする技術」なのです。
「良い質問」をするのに、特別な知識やスキルはいらない
ここまで、質問の持つ力、特に「良い質問」の効能についてお話ししてきました。
「良い質問」は、いくつかの「ルール」とちょっとした使い方のコツさえ身につければ、誰でも有意義に活用できます。質問相手が自分よりずっと知識があったり、立場が大きく異なる人だったとしても、質問によって気づきを促すことは可能なのです。
現に、私の顧客である経営層の方々は、私よりずっと経営に関する知見も経験もお持ちです。業界についての動向や今後の予想についても、誰よりも知っています。そんな方に、いくら長時間お話を聞いたからといって、経営について私がアドバイスできるはずがありません。
それなのになぜ、私から質問されることを求めるのか。それはスポーツの一流選手に必ずコーチがいる理由を考えれば、理解していただけるでしょう。
世界トップレベルのプロゴルファーにも、たいていコーチがいます。コーチはトーナメントで戦っている最中の選手に、「このホールではピン側50センチを狙って、アイアンの5番で、こんなふうにスイングするといい」といったように、一挙手一投足にアドバイスはしません。コーチよりも選手のほうが、ずっとゴルファーとしての実力が上だからです。
にもかかわらず選手がコーチを雇う理由は、コーチのフラットな目を通じて、自分のスイングや練習を細かくチェックしてもらい、常に最高の状態をキープしたいからです。自分1人では、自分自身の「正しい姿」「あるべき姿」が見えないことが、わかっているのです。
経営者がエグゼクティブコーチを雇う理由も同じです。コーチは質問を投げかけることで、クライアントの考えていること、本心で目指したいことを「鏡」のように映し出します。
相手の仕事や専門領域について、特殊な知識を持っている必要はありません。むしろ、エグゼクティブコーチに企業の経営者と同様のビジネス経験、マネジメント経験があり、それを前面に出してしまったとしたら、かえってフラットな鏡としての役割を果たさなくなってしまうでしょう。
質問の仕方は、ちょっと意識するだけで、大きく変わります。『良い質問をする技術』に書いてあることも、全部やろうとする必要はありません。どこか1頁だけでも、「あ、これ使えそう」と思ったことを試してみてください。誰かに質問してみて、反応が良かったり、相手が喜んでくれたりしたら、また別の人に使ってみてください。
質問の力を使うことで、コミュニケーションがより豊かになり、あなたにも、周りの方にもプラスのメリットが生まれることを、実感していただけるはずです。